今日紹介するハーバード大学からの論文は、このゼブラフィッシュ要請を用いて、左右の目からの別々の刺激が一定の運動出力として現れるまでの、感覚、統合、運動の過程に関わる脳活動の全てを記録して、視覚から運動が誘導される過程の回路モデルを明らかにした研究で11月3日号のCellに掲載された。タイトルは「From whole-brain data to functional circuit models: The zebrafish optomotor response (脳全体のデータから機能的回路モデルまで:ゼブラフィッシュの視覚運動反応)」だ。
研究ではまずゼブラフィッシュ幼生をペトリ皿の中で自由に泳がしながら、左右の目に別々のパターンを提示し、それにより誘導される運動のパターンのリストを作っている。この最初の図だけでも、こんなことが可能なのかと、技術の進歩に驚く。
刺激により誘導される出力パターンは前向きの動きの速さと、左右への動きの組み合わせになるが、例えば両方の目に左へ向くよう指令する刺激を入れることができる。両方の目に入る刺激が矛盾しないと判断すると、そちらを向くと同時に、泳ぐ速度が高まる。一方、それぞれの目に入るパターンの方向性が一致しない場合、向きは変わらず泳ぐ速度が落ちる。また、片方の目だけに刺激が入る場合は、矛盾は起こらないので、やはり刺激の支持する方向へ向きを変えるがスピードは遅い。
行動実験だけでも詳細は説明しきれないが、こうして明らかになった、刺激と運動パターンの相関を明確にした上で、次にそれぞれのパターンを誘導する視刺激を入れた時の脳の全活動を記録している。この場合は流石に自由に泳がせてというわけにはいかず、アガロースの中に閉じ込めて脳活動を記録するとともに、それが運動につながっているかどうか筋電図をとることで確認している。
結果だが、これも膨大で説明しきれない。各方向を向かせる刺激に特異的な脳全体の反応が見事に捉えられていると伝えるしかないだろう。
一部を抜き書きすると、
1)網膜から直接神経が投射しているAF6、AF10の活動が最初に起こり、なかでもAF6は対側の目からの刺激だけに興奮する。
2)こうして誘導された両側AF6の興奮は次に視蓋前域で統合され、運動刺激へと変換される。
3)この統合と運動への転換を行う視蓋前域の個別ニューロンの興奮を拾うと、各刺激に対応するニューロンの存在が明らかになる。
4)刺激に合わせた方向を向く運動は、後脳との回路によりより正確になるよう調節されるが、早く興奮する後脳前部の興奮と、視蓋前域からの興奮が、後脳後部で統合され、運動刺激に転換される。
5)記録された活動から、視覚運動反応に至る回路図を作成することが可能になる。
要するに、刺激と運動をつなぐかなり詳しい回路図が書けたとざっくり理解すればいいと思う。実際、今回の実験データだけでも、個々のニューロンの興奮の評価を行えば、さらに膨大なものになるだろう。当然、今後まだまだ話は続くと思う。
興奮が見えるということは、神経の光刺激が可能であることを意味する。今後回路図に基づき、行動を光刺激で支配するところまで研究は進展するだろう。
ゼブラフィッシュが神経回路研究の重要なモデルになることを確信させる優れた研究だと思う。