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11月17日:冠状動脈疾患への遺伝と生活習慣の関与(11月15日号The New England Journal of Medicine掲載論文)

2016年11月17日
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我が国でも、個人のゲノムを解析して様々な病気のリスクを割り出す遺伝子診断サービスが幾つかの会社から提供され、広く普及とは言えないまでも、徐々に広がりを見せているようだ。しかしいつも問題になるのが、病気になりやすいことがわかっても、手が打てなければ何の意味もないのではという疑問だ。これに対し、私もそうだが個人ゲノム解析の推進派は、「生活習慣を改善して病気にならない努力は、病気の遺伝リスクを知って初めてできる」と答えてきた。しかし、このことを本当に確かめるためには、遺伝リスクと生活習慣の両方をモニターした大規模な追跡調査が必要になる。
   今日紹介するマサチューセッツ総合病院を中心とする論文は、この問題を正面から取り上げた研究で11月15日号のThe New England Journal of Medicineに掲載された。タイトルは「Genetic Risk, adherence to a healthy lifestyle, and coronary disease(遺伝リスク、健康的ライフスタイル、そして冠動脈疾患)」だ。
   この研究では1987年、1991年、1992年に始まった中年から高齢の人たちを対象とした3つの大規模追跡調査データをもとに、遺伝リスクと生活習慣を調べ、冠動脈に起因する病気の発症と相関させている。遺伝リスクについては、五十種類の冠動脈疾患に関わるSNPを調べ、この結果を総合してリスクを数値化している。ライフスタイルについては、喫煙、肥満防止、そして自己申告に基づく食事を総合して、好ましい生活スタイルなどを総合して数値化している。
   遺伝と生活習慣のリスクをそれぞれ3段階に分けて、冠動脈疾患発症率を調べてみると、遺伝リスクの高い人ほど発症率は高く、また好ましくないライフスタイルほど発症率は高い。これは3つの調査すべてに当てはまり、遺伝リスクと、ライフスタイルリスクは、それぞれ独立に冠動脈疾患発症に寄与している。
   では遺伝リスクが高い人は、ライフスタイルを改めれば少しは病気を防げるのか?この研究では、3つの調査について別々に計算しているが、結果は期待通りで遺伝リスクが高い人ほど、ライフスタイル改善効果が高いという結果だ。著者らも、この点を強調したディスカッションを展開している。
  しかしよくデータを見てみると、遺伝リスクの高い人がライフスタイルを改善した場合の発症率は、生活スタイルを気にしない遺伝リスクの低い人の発症率のレベルになんとか近づいている程度で、どこまでも遺伝リスクはついて回ることも確かそうだ。もちろん、遺伝リスクの低い人が生活スタイルを改善すれば、もっと発症率は減る。
   結果は以上だが、推進派の私としては、やはり著者らと同じで、リスクを知って、生活スタイル改善の重要性を認識することが病気を防ぐと言っておきたい。おそらく次に重要なのは、遺伝子リスクを知って節制に努めた人、努めなかった人を、リスクの低い人と比べることだろう。このような調査には大変な努力が必要だ。ぜひ遺伝子検査を受けた人たちの大規模調査が行われることを願う。

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