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自閉症は人類進化に必須の性質(11月15日Time & Mindオンライン掲載論文)

2016年11月18日
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    今日紹介するのは研究論文ではなく、人類進化において、自閉症傾向を持つ人の存在の重要性を考察した総説で、考古学に関する雑誌Time & Mindの11月15日号に掲載されている(http://www.tandfonline.com/doi/full/10.1080/1751696X.2016.1244949)。論文はOpen Accessなので専門家だけでなく、グーグル翻訳などを使ってもぜひ一般の方も一読されることをお勧めする。タイトルは「Are there alternative adaptive strategies to human pro-sociality? The role of collaborative morality in the emergence of personality variation and autistic traits (人間の社会性にとっての適応戦略に他の選択肢はあるか?変わった個性や自閉症的性質の誕生に果たす共同的道徳性の役割)」だ。
   現役を退いてから、「17世紀、科学の誕生とともに排除された非唯物論的因果性が、ダーウィンによりもう一度新しい科学の対象として復活し、21世紀にさらに大きく発展すること」というシナリオについて、講義をしたり、本にまとめるためのノート作りに励んでいる。ただ、科学論文を読めばよかった現役時代と異なり、本を読む必要があり、めぼしい本はかたはしからKindleに放り込んでいる。現在ノート作りは最も苦手な脳研究から人類進化にさしかかろうとしており、この分野には特に重点をおいて本を集めている。この中には今日紹介する論文の著者、Penny Spikinsの「How compassion made us human(思いやりの心が私たちを人間にしたか)」もあり、特に興味を持ってこの総説を読んだ。
   読んでみて、この総説は人類進化と自閉症について、多くのヒントを与えてくれたと満足している。
著者らの問題は「なぜ社会性に問題があるとされる自閉症が、今も淘汰されず1−2%という高い頻度で存在しているのか?」で、これに対して「共同的道徳性の誕生が人類進化の必要条件だが、これには多様な人材を擁することが重要になる。自閉症的傾向を持つ人材は、一つのタイプとして必要とされ、また尊敬されることで、進化で淘汰されることはなかった」という答えが結論になっている。
   総説では、この可能性を裏付ける様々な証拠を列挙しており、これが面白い。ほんの一部だが、紹介しておこう。
   まず、個人や家族の力量だけが問われる段階では、他の個体との関係に苦労する自閉症の人は淘汰される確率が高い。しかし、人類進化でうまれた共同的道徳性(Collaborative Morarity)の社会が生まれると、状況は一変する。この社会は多様な人材を必要とする社会で、いわゆる変わり者の能力を必要とした。
   この総説で議論しているのは、知的障害のない自閉症についてだが、これは全自閉症の7割を超え、全人口の1−2%になる。
   自閉症は社会性が欠如しているとよく言われるが、それには反対している。自閉症の人たちは、私たちが持っている、他の人も自分と同じように考えているとするTheory of Mindの代わりに、他人の意見に流されない、法則に従うようなTheory of Mindを持っていることを強調している。この例として、自閉症の人には数学者、物理学者、技術者、そして法律家が多いことをあげている。
   また、原始社会でも、誰もが新しい石器の作り方を考案できたわけではなく、おそらく狩りは下手でも道具作りのイノベーションを起こせる人材がいる社会だけが、道具を進化させ、他の社会を淘汰したと考えられる。そしてこのイノベーションには自閉症を持つ人が大きく貢献したのではと議論している。
   さらに、社会自体の維持にとっても、自閉症の人は大多数の意見に流されず、冷静に状況を判断できる点で、社会の存続に大きく寄与したと考えている。実際、トランプ現象をみると、私たちがいかに大勢に流されるかよくわかる。この状況を打ち破れるのが、「連帯を求めて孤立を恐れない」自閉症の人たちで、その人たちを尊敬する社会が最終的に持続可能な社会と言えるのだろう。自閉症の人が、確固たる法則を重視し、大勢に流されないことについては論文もあるようだ。
   進化は、生殖優位性だが、共同的道徳性の社会では、新しい技術を生み出し、また大勢に流れようとする社会に警告を発することができる自閉症の人は、異性にもてるという文化人類学的証拠を示している。このため、決して淘汰されることはない。それどころか、優れた社会では自閉症児の数は逆に増える。
   この結果が、自閉症には100を越すゲノム領域が関わるという複雑さで、複雑な選択を受けてきた結果だろう。まさに自閉症が「Neurodiversity」のみならず「ゲノム多様性」の駆動力になっているのがわかる。また、最近自閉症と相関する幾つかの遺伝子や遺伝子多型が、ホモサピエンスに存在しても、ネアンデルタールに存在しないことが示され、自閉症に関わるゲノムが生殖優位性を持っていることも示されていることも強調している。
   最後に、自閉症を持つ人が積極的に維持されたことについての考古学的証拠についても列挙している。例えば「複雑な技術的イノベーションが石器などの道具で起こっていること、あるいは常識に惑わされず法則を導き出すことで可能になる地図や暦の発見」などが議論されているが、これを自閉症と関連づけるためには、遺伝子解読や、現存の比較的未開部族についての文化人類学的研究が必要だろう。
  以上のような様々な議論を経て、
1) 共同的道徳性の社会には自閉症の人は、社会に一つではなく、もう一つの選択肢を与えて、社会を強靭にした。
2) 特に、大勢に流されず、イノベーションを起こし、確固たる法則に基づいて社会を導く点で貢献している。
3) このように、自閉症を社会性の欠如ではなく、もう一つの社会性として積極的に評価することで、人類進化に対する新たな視点が生まれる。
と結論している。
  トランプを筆頭に、世界中で多様性を排除する動きが高まっている。おそらくその先には、人類滅亡しか見えないのは私だけだろうか。 一般の人にも、グーグル翻訳などを使ってぜひ読んで欲しい総説だ。しかしこの総説を読みながら学生運動時代の「連帯を求めて孤立を恐れず」というフレーズが浮かんできた私は、もう遺物になっているようだ。
  1. 浅川茂樹 より:

    熟考せずに感じたことを書きます。
    1)いっけん、ハンディキャップを持っていると思われがちな個体であっても、共同的道徳性があればその集団を進化させることにつながっていく。このことが定説となり広く理解されれば、私たちの社会はもっと心豊かになるのだろうと思います。希望と期待が膨らみます。
    2)とはいえ、そういった多様性のある社会を築くことはそれほど簡単ではないことも自覚しておりまして悩ましいです(自己反省含めて)。
    3)共同的道徳性が生まれる機序に興味津々です。

    1. nishikawa より:

      コメントありがとうございます。

  2. ちゅうたろん より:

    「法則に従うようなtheory of mind」という言葉に感動すら覚えます。
    人類の進化における自閉症の立場というのは、まさに「法則性を求め、従う者」なのでしょう。
    本来なら社会や人が美しい法則性のっとったものであるべきですが、非効率的な嘘や、過剰な保身にまみれてますね。

    1. nishikawa より:

      他人の顔色を見ながら生きているのが、私たちの現実です。

  3. 富田 より:

    自閉症の関連遺伝子が別の生物学的機能にも関連しているというのはあり得ることでしょうが、この淘汰に絡める論調はかなり危なっかしいものに思えます。これを裏返せば、社会的に有用でない人や性質は淘汰されて構わないということになるのではないですか。

    1. nishikawa より:

      もともとダーウィンの進化論が出てきた世紀は、マルサスやスペンサーなど、社会的に有用でない人間が淘汰される、弱肉強食的社会思想が広く受け入れられていた時代でした。それを人間は、すべての人の生きる権利を認める社会へと変えてきたと思います。これが成功する背景には、neurodiversityの概念の普及があったと思います。大事なことは、ハンディがあっても、価値を認める思いやり社会がどう進化してきたか説明することだと思います。

  4. ああああ より:

    自閉症はネアンデルタール由来です。
    アフリカの人類にほとんど重度自閉症が見られないのをみても明らかでしょう
    重度自閉症とは手をぶらぶらさせてあーうーしかしゃべれないタイプの人です。
    それが存在しないならその共同体に自閉症遺伝子がないという結論になります

  5. 弓月 より:

    自閉症スペクトラムの診断を受けた当事者、情報系の専門職として働いています(障害者雇用ではありません)。
    読んでいてなるほどなと思いました。
    健常者に混じって働くのはしんどい事も多いですが、励まされる思いでした。この記事を書いてくださり、ありがとうございます。

    1. nishikawa より:

      コメントありがとうございます。Spikinsさんの本を、google translationを使ってでも是非読んでください。

  6. 自閉症と引きこもりは違う より:

    私はたぶんASDなのでしょうが、PS氏の論文には溜息がでます。美化し過ぎです。屍を乗り越えて行け!ではないですが、進化が微笑んでくれるのは、1%の中の0.01%くらいだろうと思います。彼らを生み出すために進化がこれ程多くの一般ASDを必要としたなんて驚き以外の何物でもありません。

  7. アスペルガーですが何か? より:

    ASDを背景とした引きこもりの当事者です。

    自分は、拘りの対象が経済学なので、文系の視点から、ニューロダイバーシティの理想を実現する方法を考えてみました。

    一言で言うと、「発達障害者へのバリアフリーな社会制度」があると実現できると思います。

    物理的なバリアフリーだけではなく、社会制度でもバリアフリーを実現すると良いと思います。

    例えば、
    ・いじめられやすいアスペルガーには、ホームスクールを用意
    ・コミュニケーションの障害があるアスペルガーには、面接試験を選択制に
    ・法律においては、発達障害者には、苦手分野では権利を制限し、得意分野では権利を制限しない
    などです。

    個人のブログやTwitterで書いていたのですが、プロの学者の方に見てもらいたくなり、コメントしました。

    詳しくは、以下のブログ記事にまとめてあります。

    「発達障害者へのバリアフリーのまとめ」
    http://thinkingasd.home.blog/2019/10/10/summary-pdd-barrier-free/

  8. 日溜まりの猫 より:

    ASDを持つ人が、集団の暴走を防ぐという指摘は、とても重要だと思う。

    例えば、グレタ・トゥーンベリさんは、その好例だと思う。
    彼女は、ASDの社会性の障害から、経済問題を優先する多数派に流される事なく、地球温暖化に警告を発したのだと思う。

    日本では「空気を読めない」事が大罪のように言われるが、「周りに流されない」「自分をしっかり持っている」と肯定的に捉える事が必要だと思う。

    ホリエモンは、ADHDの特性を「多動力」と肯定的に表現する事を提案している。

    それに倣い、ASDの社会性の障害は、「独立力」「独自力」と肯定的に呼ぶと良いと思う。

    ASDの社会性の障害は、欠点ではなく、一種の才能だと社会に啓発する事が必要だと思う。

  9. addnoko.com より:

    ブログでリンクを貼らせて頂きました。
    https://addnoko.com/post-852/

    何かあればお知らせください。

    よろしくお願いします。

  10. パブロ より:

    いわゆる自閉症の人が社会に必要不可欠であり、人類進化において重要な役割をしてきた。しかし、その特徴を持つ人が生きずらくなっている。理由は経済活動の推進に一石を投じる人物は邪魔であるからだ。イギリスのEU離脱の意図は経済優先で疲弊した結果、古き良き時代のイギリスを取り戻したいのだ。日本人も先進国はヨーロッパであることに気づいていただきたい。自閉症と言うマイナスなネーミングではなくて少数派で革新的、自立、冷静、などの意味のネーミングに変えていければもっと生きやすくなるだろう。

    1. nishikawa より:

      名前を変えるだけでなく、一般の人の意識改革が重要だと思います。

  11. いじめ被害で性格が歪んだASD より:

    ニューロダイバーシティは、優生思想を前提とした思想のように見受けられます。

    ニューロダイバーシティを意地悪な言い方で言い換えれば、
    「淘汰されるべき遺伝疾患は、保護すべきではない。
    だが、ASDは例外的に役に立つから保護すべき」
    となるのでは?

    日本の精神医療制度は、精神科特例を始めとする形だけの保護になっています。
    その背景には優生思想があると思われます。

    ですが、ニューロダイバーシティの考え方を使えば、
    「淘汰されるべき遺伝疾患は今まで通りの形だけの保護で良い。
    だが、ASDは役に立つから例外的に実質的な保護を与えよう」
    と、政治家や国民を説得できるのでは?

    西川先生には、厚生省の医系技官や国会議員の方々に、そういった考え方をこっそり伝えて欲しいです。

    1. nishikawa より:

      まず、私はすでに完全隠居の身ですので、このサイトを読んでもらうことだけがコミュニケーションの手段です。
       さて、優生学についてですが、優生学では何が良くて何が悪いかが最初に頭の中に存在しています。しかし、本当はそんなことはわかりません。例えばうつ病といってしまうと、現代では悪いと思ってしまいます。しかしうつ病のバックグラウンドには、責任感の強い性格があります。責任感が強いほど、それが達成できずに落ち込むわけです。すなわち、良い、悪いを病気との関連で決めることほど愚かなことはありません。
       もう一つ重要なのは、ニューロダイバーシティーに関わるのはほとんど顧問バリアントと呼ばれる変異です。ただ、病気として現れるためには、その上にワンプッシュ必要で、これが親にはない稀な変異として今盛んに研究されています。研究上、コモンバリアントは例えばASDと関連づけられますが、実際には性格といったほうがいいように思います。

  12. いじめ被害で性格が歪んだASD より:

    迫害体験は、レベル別に二つに分けられると思います。
    ①ASDのDNAそのものが滅んでしまうレベルの迫害体験
    ②ASDの中での生存競争で、一部のASDがDNAを残せないレベルの迫害体験

    現在の日本では、ASDは①のレベルの迫害体験を受けているように感じます。

    ASDには、適度な保護を与えて②のレベルの迫害体験にすべきではないでしょうか?

    ②のレベルの迫害体験は、単にブサイクだったり、頭が悪いタイプのASDが遺伝子を残せないだけで、それは定型発達者と同じですので、あっても良いかと。

    1. nishikawa より:

      すでに書きましたが、世代間の選択は極めて複雑な過程です。身体的に子孫が残せない変異は別として、性格や知能のような高次機能については、簡単にいい悪いと分類できないのが当然です。26日ASDの遺伝変異についてYoutube配信をする予定です。

  13. いじめ被害で性格が歪んだASD より:

    うつ病も、先天的要素と後天的要素が絡み合ってh発症しているのかもしれませんが、比率としては後天的な環境の方が大きいのでは?

    確かにうつ病のような後天性の精神疾患も、きちんと治療した方が、患者をまた労働力として再利用できるので、精神科特例の例外として実質的な保護・治療を提供した方が、社会全体の利益になると思います。

    ただ、うつ病のような後天性の精神疾患は、先天的な遺伝疾患とは異なります。

    ここで言う先天的な遺伝疾患は、先天的要素の方が環境的要素よりも、原因として大きい疾患の事を想定しています。

    「先天的な遺伝疾患」というカテゴリの中には、
    ・発達障害のように集団の役に立つため、淘汰圧がかからず、100人に一人で出現する遺伝疾患
    ・1万人に一人といった割合で淘汰圧がかかっている様子の遺伝疾患
    の二種類の遺伝疾患に、ニューロダイバーシティの観点からは大別できる事になります。

    つまり、
    ・発達障害のように役に立つ先天性の遺伝疾患
    ・うつ病のような後天性の精神疾患
    は精神科特例の背景にある優生思想が適用されないとして、きちんと治療すべきだと思います。

    優生思想を理由として精神科特例のような政策をする場合は、1万人に一人の淘汰圧がかかっている様子の先天的な遺伝疾患のみを対象とするのが正しい、となるのだと思います。

    倫理に反しているのは分かりますが、科学的には筋が通っているのでは?

    ASDの自分としては、多数派が重視する倫理を守る事よりも、科学的に筋が通っている結論の方を重視した方が良いと思うのですが。

    つまり、自分のこの倫理に反したコメントも、ASDの「法則に従うようなTheory of Mind」が影響していると思うのです。

  14. アスペルガーですが何か? より:

    ニューロダイバーシティは、行動経済学からも証明できると思います。
    ・ADHDは先行者利益に
    ・アスペルガーはリスクプレミアムに
    関係があるのだと思います。

    詳しくはブログ記事でまとめました。
    https://thinkingasd.com/pdd-economics/

  15. まこ より:

    「新しい技術を生み出し、また大勢に流れようとする社会に警告を発することができる」ことでお金になればいいんだけどお金にはならないからなー
    あとそれを「伝える」手段が自閉症にはない。結局頭で考えてても死ぬしかないわけで。

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