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11月19日:効くインフルエンザワクチン開発への努力(Nature Medicineオンライン版掲載論文)

2016年11月19日
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今猛烈な勢いでインフルエンザ感染が拡大しているようだ。先週もいろんな方と出会ったが、何人か咳やくしゃみで具合が悪そうだった。そうこうするうちに、私も急に鼻水とくしゃみに襲われ、今所用で東京にいるが、なかなか仕事に集中できない。この文章もくしゃみの合間に書いているという有様だ。今の所全身症状は少なく、インフルエンザかどうかわからないが、できることはこの週末無理をしない程度が関の山だろう。
   今の所、インフルエンザの予防にはワクチン接種しかないが、医師も含めて多くの人があまり効果がないと思っている。実際、科学的なサーベーで、成人でもワクチンが効果を示すのは60%で、幼児や高齢者になるとさらに効果は落ちる。
   しかし、免疫学者にしてみれば、「残念ながら効果は低い」と言うこと自体が敗北になるはずだ。なぜ効果が低いのか?どうすれば効果のあるワクチンを開発できるのか?ワクチンに対する免疫反応を詳しく調べてこの問題にチャレンジしたのが今日紹介するテキサス大学からの論文でNature Medicineオンライン版に掲載された。タイトルは「Molecular-level analysis of the serum antibody repertoire in young adults before and after seasonal influenza vaccination (流行とは関係なく季節的に行うインフルエンザワクチン接種前後の抗体レパートリーの分子レベルの解析)」だ。
   通常のワクチンには二種類のA型インフルエンザウイルスと、一種類のB型インフルエンザウイルスの赤血球凝集素(HA)が混合されている。この研究の重要性は、ワクチンに対する反応を、通常抗体のアッセイとして行われる赤血球凝集反応だけでなく、抗体のアミノ酸配列レベルで解析している点だ。接種前及び接種後20日、180日目の血清を採取、抗原で抗体を純化し、そのアミノ酸配列を質量解析法で調べている。これにより、ワクチン接種前に存在した抗体のレパートリー、ワクチンにより新たに出現したレパートリーを比べ、免疫反応動態を明らかにできる。ただ、大変大掛りな実験で、この研究でも4人の青年について解析するのが精一杯だったようだ。
  これにより、ワクチン接種前には6種類の抗体しか持っていなかったのが、免疫で40から150種類にまで上昇する。ただ、種類は増えても、実際にはトップ6%のクローンが、抗体全体の60%を占めている。そして面白いことに、接種前に存在する抗体の種類が少ない人は、免疫後多くの種類の抗体ができることがわかった。すなわち、免疫前に持っている低いレベル抗体が、新しい抗体のできるのを抑制している可能性が示された。
   これらは、詳しい免疫動態の解析で、なるほどと納得するだけだが、この研究のハイライトは特定された抗体の中にH1とH3型の両方の赤血球凝集素(HA)に結合できる抗体は、通常のインフルエンザ抗体測定に使われるHA阻害効果は全くないが、強い予防効果があるという発見だ。
   構造解析から、この抗体はHAが3量体を形成すると隠される領域に対する抗体で、3量体のHAには阻害効果がないが、HAが細胞膜上で形成されるのを阻害し、感染予防効果が強いということが明らかになった。さらに、この抗体はH1、H3だけでなく、他のタイプのHAにも結合するため、ユニバーサルなワクチン開発につながる点だ。
   長くなるので、この辺で紹介はやめる(またクシャミ)。
   ゲノム研究が進んで、抗原側の解析は進んだが、実際のヒトの免疫反応をクローンレベルで調べる研究はほとんどない。ヒト免疫反応の詳しい解析を通してしか効果のあるワクチン開発はないこと、さらにそのための方法論を示した点で、重要な研究だと思う。

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