今日紹介するスイス・チューリッヒ大学からの論文はREM睡眠中の運動が視床下核のβ振動のロックの影響から逃れているのか生理学的に調べた研究で11月16日号のJournal of Neuroscienceに掲載された。タイトルは「Electrophysiological evidence for alternative motor networks in REM sleep behavior disorder (REM睡眠中の運動には、通常運動とは異なる運動ネットワークが関わっていることの電気生理学的証拠)」だ。
研究ではREM睡眠中にスムースに運動することが確認された4人のパーキンソン病の患者さんに設置された深部刺激用の電極を通して視床下核の電気活動を記録するとともに、脳波を同時記録し、他の脳の活性との同調性を計算している。
これまで知られていたように、視床下核ではβ振動が覚醒中と、REM睡眠中に見ることができる。パーキンソン病患者さんではこのβ振動が覚醒時の運動中に低下するのに対し、REM睡眠中では逆に促進する。
次に脳波から見られる脳活動と、視床下核のβ振動との同調性を調べ、運動時の脳と視床の連動性を調べると、REM睡眠中だけβ振動と脳波との同調性が低下することを見出している。
あと運動開始とβ振動の時間的関係などを詳しく調べているが、患者さんにお願いして調べさせてもらっているので結果はここまでだ。あとは、これまでの論文などと合わせて以下のような結論に到達している。
おそらく脳皮質から視床下核へのインプットが運動の阻害に関わっており、この間にどの運動を始めれば良いのかなどが統合的に決定される。パーキンソン病患者さんではこの運動開始を支配するネットワークが、ドーパミン依存性の基底核とリンクしており、ドーパミン欠乏下ではうまくいかない。ところが、REM睡眠中には運動開始が抑制されるより前に脳皮質からの刺激が入るが、睡眠により運動を支配する基底核の抑制性活動はバイパスされるため、他のまだわからないネットワークに運動が依存する。この結果、視床下核のβ振動とリンクを保てることでスムースな運動が可能になっているというものだ。
残念ながら、この基底核をバイパスした時に働くネットワークのメカニズムについては全く不明だ。しかし、この理解が進めば、深部刺激と同じように、ドーパミン欠乏状態でもスムースな運動を可能にする方法が開発できる可能性がある。生理学は苦手だが、今後もこの分野を注視したいと思っている。