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12月1日:インフルエンザワクチンは自閉症の発生に影響はない(11月28日JAMA Pediatrics掲載論文)

2016年12月1日
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   妊娠中の様々な感染や発熱は、生まれた子供の自閉症の発症に関わることが様々な調査によって指摘されている。これを聞くと、まずお母さんは最も身近な恐怖としてインフルエンザ感染を心配することになる。これを防ぐためには、今の所効果は限定されているとはいえ、インフルエンザワクチン接種以外に方法はない。しかし、妊娠初期のインフルエンザワクチンも同じように自閉症の発症率を上げる可能性を指摘している論文もある。逆に、全く影響がないとする論文も発表されているが、一般の人だけでなく、医療関係者ですらどちらを信じていいのかよくわからない状況になっている。
   この状況を打開しようと米国で900万人近くの会員を擁する保険維持機構カイザー・パーマネンテが、会員の妊婦さんを対象に大規模調査を行ったのが今日紹介する論文だ。タイトルは「Association between influenza infection and vaccination during pregnancy and risk of autism spectrum disorder(妊娠中のインフルエンザ感染とインフルエンザワクチンの自閉症スペクトラム発症リスク)」で、11月28日号のJAMA Pediatricsに掲載された。
   結論は明快で、妊娠中のどの時期でも、ワクチンだけでなくインフルエンザ感染自体も生まれた子供の自閉症の発生とは関係がないと、自信を持って言い切っている。
   ただ、相関関係があるとする論文と比べて、今回の論文はより信用に足るのかという点が問題になるが、私自身は信用できるという印象を強く持った。
   まず対象が、2000年から2010年に生まれた約20万人の子供を対象で、母数としては十分だ。
   加えて、子供達の成長記録及びお母さんの病歴、妊娠中の記録などが完全に把握できている。これは、すべての対象がカイザー・パーマネンテ(KPNC)の会員として、傘下の病院でケアを受けているからで、ワクチン接種からインフルエンザ感染の確定診断まで正確な記録が存在している。
   さらに、このサービスを受けられるのが収入の高い階層で、生活環境が一定している点も見逃せない。事実、今回対象となったお母さんの実に20%近くが大学院が最終学歴で、全体の8割が大学以上の学歴を持っている。いうまでもなく、白人が大多数で、次がアジア系アメリカ人だ。おそらく、これほど対象の階層を揃えた研究はこれまで行われたことがなかったのではないかと思う。
   実際のデータを見ると、妊娠初期(12周まで)にワクチン接種を受けたグループでは少し自閉症の発症率が高い。しかし、対象についての完全な記録が揃っているため、自閉症と関係する様々な要因を加味して、統計を取り直すことが可能で、その結果著者らは、インフルエンザワクチン、インフルエンザ感染と自閉症の発症は無関係と言い切っている。
   もちろん、社会階層が全く異なれば同じ結果になるかどうかはわからない。しかし、健康な生活を送っておれば、この結果を他の階層に当てはめてもいいのではと思う。
   この論文を読んでいて、KPCNに属する著者らの極めて自信に満ちた論調に驚いた。会員のすべての記録を電子化し、共通化して把握していることの強みをひしひしと感じる。
   同じ週にNature GeneticsにもKPCNの会員を対象に行った高血圧の遺伝子多型の論文が発表された。この論文を読んでも、200万近い、しかも様々な医療記録が完全に揃った対象について、ゲノム検査を着々と進めているKPCN傘下の研究者たちの自信に満ちた論文の書きぶりが強く印象に残った。
   保険と医療サービスを一体化したサービスに関して、これまで様々な問題が指摘されていたが、ここまでくるとKPCNの長期展望を評価せざるをえない。トランプ体制になれば、さらに揺るぎない地位をKPCNは固めていくのだろう。一方、オバマケアは風前の灯のようだ。

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