今日紹介するトロント大学からの論文は同じようにウイルスのしたたかさを示しているが、別のCRISPR無力化システムの報告で12月15日号のCell に掲載された。タイトルは「Naturally occurring off-switches for CRISPR-Cas9(自然に生まれたCRISPR-Cas9のオフスウィッチ)」だ。
おそらくウイルスのしたたかさを確信するこのグループはCRISPR-Cas9システムの活性を抑制することができないと、ウイルスは生存できないはずで、必ず無力化システムがあると信じて研究をしていたようだ。不勉強で気付かなかったが、すでに1型のCRISPR-Casシステムに対する無力化分子をインフォマティックスを利用して特定し、論文発表を行っていたようだ。
この研究では、通常遺伝子編集に使われる2型のCRISPR-Cas系に効果がある無力化分子があると考え、2型を発現している細菌に感染するウイルスのゲノムを探索し、2種類の分子Aca1とAca2を特定した。この分子をCRISPR-Cas9システムを持つ細菌のアッセイ系で調べると、その活性をほぼ完全に抑制することが分かった。
次にCas9分子のDNA切断活性を指標にこの分子の活性を調べると、Cas9に直接結合してのDNA切断活性を抑制することを明らかにしている。そして、ヒト細胞株のテロメアにCas9が結合する実験系を用いて、anti-CRISPR はCas9のDNAへの結合を阻害する分子であることを示している。
もちろん、Aca1、Aca2によってCas9による遺伝子編集を完全にブロックできることを示して、将来残存Cas9が非特異的にDNAを切断したり、あるいは同じ箇所をなんども切断することがない遺伝子編集が可能であることを示している。
しかし、遺伝子編集の実際を考えると、編集が起こってから絶妙のタイミングでこの分子を新たに発現させるのはハードルが高いだろう。それより、ウイルスのしたたかさの方がずっと面白い。
さらに多くのこの分子ファミリーを特定して、anti-CRISPR分子の進化過程をぜひ知りたいものだ。