今日紹介するマサチューセッツ工科大学からの論文は、CRISPR技術、遺伝子バーコード技術、単一細胞からのバーコード化cDNAライブラリー形成方法、次世代シークエンサー、そして新しいインフォーマティックスの全てを組み合わせ、これまで一つ一つ調べていた転写因子の機能を、セットで調べる方法を開発したという報告だ。タイトルは「Perturb-seq:dissecting molecular circuits with scalable single-cell RNA profiling of pooled genetic screens(Perturb-seq :細胞集団を用いた遺伝子探索で得られる大規模化可能な単一細胞RNAプロファイリングを用いて分子間相互作用を解析する)」で、12月15日号のCellに掲載されている。またこの論文掲載された同じ号のCellに、この方法を用いてERストレスに関わる転写因子群の解析を発表して、この方法が確かに使えることを示している。
この研究の目的を簡単に表すと、これまで遺伝子変異を導入して解析を行っている研究者のストレスを全て解消できる方法の開発と言えるかもしれない。
CRISPR法のおかげで、何十種類もの遺伝子をノックアウトすることは簡単になった。この研究ではCas9を発現するトランスジェニックマウスにレンチウイルスを用いて、何十種類もの遺伝子に相当するガイドRNAを導入している。問題は遺伝子ノックアウトの結果をどう解析するかだが、バラバラに遺伝子がノックアウトされた細胞が混じっている状態では、何もわからない。そこで、水滴の中に一個づつ細胞をトラップし、そこでmRNAライブラリーを作るときにバーコードをつけるという単一細胞の遺伝子発現解析のための方法と組み合わせている。これによって、ガイドRNAと、それによりノックアウトされる遺伝子の影響下で発現が変化したmRNAを対応させることができる。バーコードによりノックアウトした遺伝子とその結果としての遺伝子発現を対応させることができるため、細胞ごとの遺伝子発現を保存しないで、得られた全てのデータを一つのストーレージにまとめておける。ただ、何万個もの細胞に対応する個別のデータがまとめて一つのデータベースに存在しているため、大変なビッグデータだ。これをバーコードと対応させながら、遺伝子の機能を示唆することができるアプリケーションの開発が必要で、このアプリも同時に開発している。
この結果、骨髄の樹状細胞がLPSで活性化されるときに関わると思われる67種類の転写因子を一度の実験で一網打尽に解析できることを示している。詳細は全て省くが、この方法で得られる結果は、従来何年もかけて明らかにされてきた結果とほぼ一致する。同じように、次の論文ではERストレスに関わる転写因子ネットワークを明らかにすることに成功している。
もちろん、これまで知られていないことをどこまで明らかにできるかは今後の課題だろう。ヒトの発生で言えば、iPSとの相性はいいと思う。他にも、クロマチン解析など様々な方法を組み合わせる可能性がある。ただソフトも含めて、ここまで統合的に方法が開発されると、他の研究者は技術の消費者にならざるをえない。
おそらくこのような統合的方法の開発はNEDOが目指しているはずだ。遺伝子編集にまつわる世界レベルの技術が生まれるのか、注視していきたい。