そんな例とも言える論文がコロラド大学を中心とする研究グループから12月6日発行の米国医師会雑誌に掲載された。タイトルは「Association between end-of-rotation resident transition in care and mortality among hospitalized patients (ローテーション終了によるレジデントの交代と入院患者さんのケアや死亡率との相関)」だ。
米国の医療や公衆衛生学の論文を見ていると、インターンやレジデントの燃え尽き症候群や自殺が大きな問題になっているのがわかる。大学を終えて間もない医師にとっては、精神的にも肉体的にも過酷な労働であることは、自分の経験からもよくわかる。実際、1日16時間を超える労働が当たり前だったようだ。ようやく2011年に1年目のレジデントやインターンの労働時間が16時間を超えてはならないという卒後教育評議会からの勧告が行われ、勤務シフトが行われるようになった。おそらく一般の方から見たら16時間はなんとブラック労働かと驚かれると思うが、私には納得できる。
ただ、16時間であれ勤務シフトが行われると引き継ぎがうまくいくかどうかが問題になる。これについては、インターン、レジデントのシフト制度導入前後で入院患者さんの死亡率が調べられ、特に問題ないことが確認されている。
この研究の目的は、インターンやレジデントのローテーションが終わり、次のグループに引き継がれるとき、患者さんに影響が出ていないかを調べることだ。私も経験があるが、我が国では医師免許が交付されるとすぐに研修医が始まる。これを起点として、研修プログラムが設計されているため、必ず患者さんを引き継ぐ必要がある。この境で、引き継ぎがうまくいっているかどうかを調べるものだ。
舞台はニューヨークにある退役軍人を対象にする医療施設で、大学の研修機関になっている。この研修プログラムで引き継ぎは、直接医師が出会って行うのではなく、ほとんどが文書による引き継ぎになっている(少なくとも私の時代も同じだった)。
この引き継ぎ期間と、それ以外での患者さんの死亡率を比べると、インターンだけ、レジデントだけ、そしてインターンとレジデントが同時に交代するプログラムで、オッズ比でそれぞれ12%、7%、18%と上昇している。また、退院後30日目、60日目の死亡率で見ても高い。このことから、インターンやレジデントが患者さんのケアの中心になっており、その引き継ぎが極めて重要であることがわかる。
さらに重要なのは、この引き継ぎリスクが、16時間労働制限が守られるようになってから大きく上昇している点だ。例えばレジデントの交代時期で言えば、オッズ比1.01が、労働制限後1.13に上昇している。すなわち、労働を削ると引き継ぎがうまくいっていないという実態が明らかになった。
この結果を受け、他の機関でも検討が行われ、引き継ぎがスムースに進むプログラムが考えられるだろう。
この論文を読んで、私が一番驚くのは結果ではない。このような調査に医療施設が協力し、あまり好ましくない結果をトップジャーナルに掲載することができるという点だ。さらに、このような調査が、病院のコンピューターにある記録を抽出することだけでできることだ。この公開性こそ、医療制度改善の基盤になる。自分の働いている病院で、同じ研究が可能か考えてみることが重要だと思う。