この問題を解決するのが、ゲノムの塩基配列を調べてしまう方法で、完全なのは全ゲノムを解読してしまうこと、次がタンパク質をコードする遺伝子の全てを解読するエクソームだ。
私たちのNPOの役員の一人、安河内は全ゲノム解析を終えており、私が紹介した論文が報告している新しい方法を常に自分のゲノムで確かめて、その有効性を検証しておいる。このデータについてはいつか紹介したいと思っているが、個人ゲノムの第二段階が必ずくることを予見しての活動だ。我が国だけを見ていると、第二段階は当分先のことと思うが、アメリカでは急速に進んでいる。
ゲノムの塩基配列を解読するサービスを基盤に個人の遺伝子検査サービスを行う個人ゲノムの第二段階が今始まっていることを示す論文が12月23日号のScienceに、バイオベンチャーのリジェネロンと米国で電子化された患者記録を基盤に病院を含む様々な健康サービスを展開するGeisinger健康システムから発表された。タイトルは「Distribution and clinical impact of functional variants in 50,726 whole exome sequences from the DiscovEHR study.(DiscovEHRプロジェクトに参加する50726人のエクソーム配列解析に見られる機能的変異の分布と臨床医学的インパクト)」だ。
Geisinger Health Systemでは、患者さんのデータを電子化して保存、患者さんがどの医者にかかってもPCからデータ取り出せるようにしている。このサービスが積極的にエクソーム配列解読サービスを進めた結果、電子カルテとエクソームデータをリンクさせることができ、今回インフォームドコンセントの得られた5万人強のデータを解析し、論文にしている。この5万人のうち40%近くが、子供や親のゲノムデータも得られ、家系解析まで可能なビッグデータが生まれている。この事実が、この研究のハイライトで、今後同じデータを使って順々に検査項目を調べれば、新しいデータが無限に得られるという話だ。
一端だけを紹介すると、一人の個人はタンパク質をコードする遺伝子全体で、2万を超す多型を持っており、そのうち遺伝子の機能が欠損する変異はなんと平均21個も持っている。はっきり言って、全て正常な人などまずいない。5万人も調べると、全体で18万近い遺伝子機能が失われる変異をリストすることができ、1313個の遺伝子では両方の染色体でノックアウトされている個人が特定できる。これまでショウジョウバエ、ゼブラフィッシュ、マウスと突然変異を誘導するプロジェクトが進んできたが、これを上回る数の変異を人間で特定できるようになったことになる。
この研究では高脂血症や高尿酸値など様々な検査項目についての解析も示しているが、全て省略する。この論文の重要なメッセージは、患者さんの視点に立ってpeer to peerサービスを目指してきた健康サービスとゲノム検査サービスを組み合わせることの重要性、およびこれが民間主導で行われていることだ。これこそが、ゲノム検査第二段階の重要な要件になる。
こうして明らかになった遺伝子リスクの進行状態をエピジェネティックな状態として評価する可能性を肥満について示した論文がドイツのヘルムホルツセンターからNatureオンライン版に掲載された。タイトルは「Epigenome-wide association study of body mass index and the adverse outcomes of adiposity」だ。詳しく紹介しないが、ざくっとまとめるとメタボリックシンドロームにより、末梢血のメチル化状態が変化し、これが肥満の進行を反映するという話だ。
ゲノムサービス第三段階では、全ゲノム解析に基づき、遺伝子リスクを明らかにし、その進行状態を血液細胞のエピジェネティックな状態からチェックするというスキームかもしれない。
これから考えると、我が国はようやく第一段階入り口と言っていいだろう。なぜこうなったのか、最も大きな要因は患者さんの本当のサービスのためにゲノムを調べるという観点が研究者や役所に欠けていたことだと思う。再建のためにはまず反省が必要だ。