tRNAにはメチル化を始め様々な修飾が加わっていることはよく知られていたが、最近mRNAのメチル化が、mRNAの安定化メカニズムとして注目され、研究が加速している。しかし、生化学的に見るとこれまでの結論、例えばメチル化はmRNAの中央部で起こり、N6-メチルアデノシン(m6A)がメチル化mRNAのほぼ全てを代表するとする結論、には様々な問題があり、mRNAのメチル化を生化学的に検討し直すことの重要性が認識されていた。
今日紹介する最初のの論文はシカゴ大学を中心とする、mRNAの脱メチル化酵素として特定されたFTOの白血病との関わりを明らかにした研究についての論文で1月9日号のCancer Cellに掲載された。タイトルは「FTO plays an oncogenic role in acute myeloid leukemia as a N6-methyladenosineRNA demethylase (FTOはm6Aの脱メチル化酵素として急性白血病発生に関わる)」だ。
このグループはもともと白血病の研究をしており、mRNAのメチル化を調べたいと思って研究を始めたのだろう。次の論文でわかる、FTOがm6Aの脱メチル化酵素であるという話を鵜呑みにして、あとはFTOの発現量を変化させて白血病の増殖がどうなるかという、細胞学的検討を行い論文にしている。ざっとまとめると、MLL遺伝子の転座を持つ白血病ではFTOが高く、これをノックダウンすると増殖が低下する。また、白血病発症モデルでも、FTOを過剰発現させたマウスでは白血病発生が促進し、低下させると発症が遅れる。FTOで変化する分子を探索すると、ASB2,RARA発現の低下がその原因として浮上し、白血病のレチノイド治療時と同じ効果をFTOが持つことを示している、というのが結論になる。
研究の過程で、FTOがm6Aを低下させることについても抗体を用いたブロッティングで示しているが、次の論文で明らかになるように、この方法はm6A特異的ではない。他のデータも仔細に見ると、それほど大きな効果はなく、論文自体は結論先にありきでなんとかまとめたという印象が強いが、来月には堂々とCancer Cellに掲載されることになる。
著者にとってはめでたしめでたしだっただろうが、コーネル大学からメチル化RNAの生化学を重視した論文がNatureにオンライン発表されたおかげで、喜びが冷や汗に変わったと思う。
次に紹介するコーネル大学からの論文のタイトルは「Reversible methylation of m6Am in the 5’ cap controls mRNA stability(mRNAの5’キャップに存在するN6,2’-O-ジメチルアデノシン(m6Am)の可逆的メチル化によりmRNAの安定性が調節される)」だ。
前の論文と違って、さすがと思わせる生化学のプロの論文だ。まずFTO分子が本当にm6Aの脱メチル化酵素かどうかを調べている。まず、これまで検出に用いられた抗体がm6Aだけでなくm6Amも認識することから、この2種類のメチル化RNA を区別して生化学的に調べ、FTOがm6Aではなくm6Amを選択的に認識していることを明らかにする。さらに、これまで考えられていたのとは異なり、配列の最初の塩基がm6Amである時、キャップにあるm7Gを認識して脱メチル化すること、さらにメチル化によりキャップのm7Gをm6Amから切り離す酵素に対して耐性が生まれることでmRNAが安定化すること。さらに、m6Aの脱メチル化酵素はFTOではなく、ALKBH5であることも証明している。最後に、m6AmによりmiRNAの作用に抵抗性が生まれることを示しており、これは白血病を考える上でも面白い。
今後メチル化RNAのこれまでの研究は、この新しいシナリオを元に再編成されると思う。しかし、Natureの論文を知ってから白血病の論文を書いておれば、全く違った論文になったかもしれない。ただ、新しい概念に全く気づかず論文を出してしまうと、冷や汗だけが残ってしまう。
アマからの反論?
Molecular Cell 71, 973–985, September 20, 2018