この驚きを経験すると、当然核内のDNA3次元マップを作りたくなる。例えば今年1月4日に紹介したジャクソン研究所からの論文(http://aasj.jp/news/watch/4671)は、DNAが折り曲がる場所に結合するCTCF結合部位を調べて、この地図を作ろうとするものだった。これにとどまらず、隣接するゲノム領域を特定する方法が開発されてからのゲノムの3次元構造に関する研究の進歩は目をみはる。ただ、これまでの方法はかなり距離が離れた領域同士の結合を調べるのには適していたが、ヒストンに巻きついた近接したDNA同士の関係は教えてくれない。すなわち、ビルの中の通路を遠くから俯瞰することはできても、実際に歩いて感じる距離感がわからないのと同じだ。
今日紹介するスタンフォード大学からの論文はこの隙間を埋める方法を使って、ヌクレオソーム1−3個分の領域間の関係を明らかにした研究でNatureオンライン版に掲載された。タイトルは「Variable chromatin structure revealed by in situ spatially correlated DNA cleavage mapping.(細胞内で空間的に関係しているDNAを切断法で調べることでクロマチン構造の可変性が明らかになる)」だ。
DNAはヌクレオソームと呼ばれるヒストンに巻きついている部分と、巻きついていない部分に分かれる。また、折りたたまれ方により、隣接するヌクレオソームの距離も変化する。この小さな構造を明らかにするため、著者らは1998年に開発されたDNA切断法でヌクレオソームを分類する方法を採用する。
この方法では生きた細胞に高エネルギーγ線を照射して、まずDNAを切断する。この時、DNA鎖が直接切れるだけでなく、水分子にエネルギーが添加され、そこで発生するOHラディカルが3-4nmに存在する糖鎖と反応してDNA切断する。後者の場合、一つの水分子の近くのDNAだけが一本鎖切断されることから、例えばヒストンに巻きついている時隣り合っている領域、あるいはヌクレオソームの結び目、さらにはヌクレオソームが強く畳まれることで近接した1−2個離れたヌクレオソーム上のDNAなどが同じイベントにより切断される。それぞれでは、78nt,177nt,373nt程度の大きさの一本鎖断片が生成されることから、ヌクレオソームがどのような構造に組み込まれていたかを詳しく知ることができる。実際には、6種類の微視的な構造が定義できている。
あとは、この構造と、エピジェネティックマッピング、あるいは3Dマッピングと対応させて、微視的な構造とエピジェネティックス、あるいは巨視的な構造との関係を明らかにしている。詳細については割愛するが、例えば同じ抑制型のヒストンコード、H3K9me3とH3K27me3では、373型の断片のでき方が全く違うことを発見しており、コンパクションの度合いがH3K9me3ではるかに高いことがわかる。また、転写されるためのアクセス可能性のヌクレオソーム構造も明らかにしている。
今後、他の方法と合わせて、より精緻な3D−DNAルートマップが完成するだろう。1998年の方法を発掘したことにも感心した。