昨日はScienceの選んだ2016年のブレークスルーを紹介したので、今日はNatureが専門家に依頼して選んだ2017年科学の注目点についてざっと紹介することにした(Nature 541, 14-15: doi:10.1038/541014a)。タイトルは「2017 sneak peek: What the new year holds for science (2017年の予告:科学にとって2017年はどんな年だろう)」
Rough sea for climate荒れる気候温暖化問題
言うまでもなくトランプが大統領になり、アメリカがパリ協定を無視する方向に動くと予想される今年こそ、最大の温暖化ガス排出国中国のリーダーシップが問われるだろう。今年中国が予定している排出枠割り当て制度の導入は注目される。幸い、温暖化ガスの排出自体は減ってきている。また、南氷洋の吸収能力のロボット調査が今年示される。
Political hangover(政治の後遺症)
昨年はBrexit, Trump選出と科学界にとってはショックの年だった。トランプが大統領に就任する今年は、気候や地球に関する研究プログラムを骨抜きにし、ヒトES細胞研究を再び禁止するだろう。フランス、ドイツと選挙が続く今年も予想のつかない年になるだろう。
Return to sender(宇宙から資料が地球に戻る)
中国の嫦娥五号により1970年アポロ計画以来2度目になる月のサンプルが地球に持ち帰られる。今回は2Kgのサンプルが採取される。また今年、20年宇宙を飛行したカッシーニがついに土星の内側の輪を突破する。衛星がくだけ散る前に土星の大気についての情報が送られることが期待される。
The world within (内なる世界)
体内の細菌叢についての研究がさらに加速する。細菌叢が脳の発達や発がんに影響するのか?今年も多くの結果が報告されると期待される。
Genetic competition(遺伝競争) CRISPR-Cas技術について争っているカリフォルニア大学バークレー校とβロード研究所との裁判の判決が出る。この特許を破る目的で開発された中国のNgAgoは再現ができず、浮くか沈むかの瀬戸際にあり、今年中に決着がつくだろう。英国ではミトコンドリア置換による生殖補助医療が認められた。今年も、遺伝学は世界を騒がせそうだ。
Quantum supremeacy(量子が時代を席巻する)
まず量子コンピュータがこれまで解けなかった問題を解決すると期待される。中でもグーグルのD-Waveは競争のトップを走っている。これ以外に、マイクロソフトは粒子の運動の情報を使うより安定な位相量子コンピュータを少なくとも今年には発表すると言っている。
Illuminating the dark(暗黒を照らす)
世界の9箇所の電波望遠鏡が協力してブラックホールの向こう側を見る計画が進行しており、一般相対性理論を検証し、ブラックホールの秘密を照らすと期待される。もちろん重力波観察施設からの新たな報告も期待される。
Wonder Materials(驚異の物質)
新しい灰チタン石ベースの太陽電池の商業利用が始まる。また、X線のでない電子線レーザーがドイツで稼働し、化学反応がこれまで以上に詳しく解析できると期待される。
Big Blue(海洋環境)
ロス海での漁業と鉱業開発が禁止され、その効果に注目が集まる。一方、世界最大の氷山は1983年以来最小になる。サンゴ礁で続けられている観察により、なぜ影響が場所によりまちまちなのか明らかにされることが期待される。
T cells fight back (T細胞が戦いに戻る)
このHPでも紹介したCAR-T(http://aasj.jp/news/navigator/navi-news/2309) よるガン治療がFDAの認可を経て市場に出る。
Planet nine(9番惑星)
12月NASAの探査機が打ち上げあげられ、2万年周期で太陽を回る幻の9番惑星の存在が明らかになるのではと期待が集まっている。
今年も面白い論文に出会えそうだ。