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1月4日:変異型K-RASと細胞膜の相互作用(1月12日号Cell掲載論文)

2017年1月4日
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   昨年もRAS発がん遺伝子についての論文を多く取り上げたと思う。これは、半数近いガンで突然変異が見られるRASの活性を制御できれば、ガン治療は大きく変化すると期待しているからだ。私自身の印象では、RASの活性制御という困難な問題にかなりの研究者が今もチャレンジを続けており、しかも生化学や構造生物学のプロ中のプロがこのチャレンジに加わっており、確実にゴールに向かって進んでいることは間違いない。
   今日紹介するテキサス大学からの論文はプロ中のプロの仕事の典型で、読んで全く異なる視点と素人には及びもつかない視点を学ぶことができる。ぜひ若い研究者には熟読して欲しい論文だ。タイトルは「Lipit sorting specificity encoded in K-RAS membrane anchor regulates signal output(K-RASの細胞膜アンカー部位によってコードされた特異的な脂質との反応がシグナル出力を調節する)」だ。
   RAS分子は活性化されると細胞膜にアンカーされ、クラスターを形成することで下流のシグナル伝達因子をリクルートすることが知られている。RASの膜アンカーについて私が知っていたのは、C末端のファルネシル化やゲラニル化を介するメカニズムだけだが、実際にはもっと複雑で、C末に連なるリジンの繰り返し配列が重要な働きをしていると考えられていたようだ。この研究では、細胞膜の脂質とRASの相互作用に関わるこのリジンの繰り返し配列を含むC末領域の役割が包括的に研究されている。
   これまでの研究でリジン繰り返し配列にはフォスファチジルセリン(Ptd-Se)が集まってRASの集合に関わることが示唆されていたので、この研究では細胞膜上のPtd-SerをR-Fedilineという薬剤で減少させたたあと、さまざまな形のPtd-Serで膜を再構成して、変異型K-RASが集まってクラスターを作るかどうか調べ、非対称アシル鎖を持つPtd-Serだけがこのクラスター形成に関わることを示している。このアッセーだけでも驚くが、あとは分子間の結合を調べるための電子顕微鏡技術、FRET法を駆使して、K-RASのリジン繰り返し部分とPtd-Serが直接結合することで、K-RASが集合し、そこに下流のシグナル分子RAFが関わることを示している。
   次は、K-RAS側のリジンの繰り返し配列を含むK-RAS側に変異を導入し、クラスタリングやPIP2との結合など、脂質との関係について丹念に調べている。詳細は全て省くが、リジン繰り返し配列を含む膜アンカー部分の各ドメインが、異なる役割を持っており、小さな変化が膜やPtd-Serとの大きな変化につながることを証明し、膜アンカーの電荷のみが関わるという単純な話でないことを示している。
   そして、得られた定量的な結果から、K-RASアンカー部分の構造趣味レーションを展開して、アンカー部分が秩序をもった構造と、無秩序な構造の間を、中間構造を介して行ったり来たりできること、またそれぞれの突然変異体をこの方法で分類できることを明らかにしている。
   プロの総合力に触れると本当に圧倒されるが、今回明らかになった細胞膜とタンパク質の関係については、この研究をきっかけに、新しい検討が始まるような予感がする。期待したい。
   私は医者から転向した素人研究者だったが、素晴らしいプロと付き合うことができた。亡くなった月田さんや、高井さん、竹縄さんなど、教えてもらうことは多かった。網羅的研究やインフォーマティックス、AIが大きく進む時代こそ、細胞学、生化学、解剖学などのプロが我が国に何人いるのかが問われるだろう。もし数が減っているなら、育成を真剣に考える必要がある。

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