しかしCART治療にも弱点がある。一つは、ガンだけに発現している抗原を見つけるのが難しい点、及び移植したリンパ球の移動の関係で、固形がんに対しては大きな成果が生まれていない点だ。
これに対し、今日紹介するカリフォルニア・シティーホープ医療センターからの論文は、最も悪性の脳腫瘍、グリオブラストーマにCARTが効果を持ち得ることを示唆する症例を報告している。タイトルは「Regression of glioblastoma after chimeric antigen receptor T cell therapy(キメラ抗原受容体T細胞治療によってグリオブラストーマが縮小した)」だ。
この論文はあくまで一例報告で、これが一般性を持つかはこの段階で結論できない。それでも、表題にあるように、ただただ進行するグリオブラストーマを縮小させることができた点がNew England Journal of Medicineも大きく評価したのだろう。
患者さんは55歳男性で、通常の治療では効果がないと、CARTが用意された。この研究で使われたCARTは少し変わっている。まず、抗体遺伝子の代わりに、グリオブラストーマに高頻度で出ているIL13受容体に結合するIL-13分子とT細胞の共刺激分子4-1-BBを結合させたキメラ受容体だ。
再発後、大きな腫瘍を取り除き、そこにできた空洞に用意したCARTを週一回のペースで注入している。すなわちCARTの局所注入だ。これにより腫瘍の進行を抑えることができたが、45日目には再発が見られている。普通なら諦めるところだが、著者らは手術でできた空洞に注入するのが効果が出ない原因ではないかと考え、今度はCARTの注入場所を脳室に切り替えている。
すると、すでに3塊目の注射で脳内に見られた全ての腫瘍塊及び脊髄の転移巣が急速に縮小し、その後7.5ヶ月間にわたって再発を抑えることができた。しかし、その後他の場所に新たな腫瘍が見つかったという経過だ。
繰り返すが、1例報告なので、今後症例を重ね、治験へと進む必要がある。ただ、脳室内への細胞移植が脳内や脊髄内の腫瘍に対して有効なことだ。さらに、今回標的にされたIL-13受容体は全ての腫瘍細胞に出ているわけではなく、約3割は完全に陰性、3割の発現は低いことがわかっている。にもかかわらず脳室注射で全ての腫瘍がほとんど消失したということは、CARTが刺激になって患者さんのT細胞が活性化され、腫瘍縮小に関わったことを意味する。また、今回注入したCARTは脳内で増殖を続けることはなく、細胞移植をつづけられる必要があることだ。最後に、これまで腫瘍がなかった場所に新たな腫瘍が再発したことは、IL-13受容体の発現のない腫瘍が新たに発生したことを示唆し、グリオブラストーマのしたたかさを再認識させる。
とはいえ、CARTを脳室内に頻回投与する治療法は、さらに症例を重ねる治験へと進んで欲しいと期待する。
手術不適応の希少癌への取り組みは、低分子アプローチでも進めていきたいと思います。
希少ガンでだけではなく、グリオブラストーマのように治療が困難なガンも是非お願いしたいです。
西川先生、
今朝の日経新聞に名市大近藤先生のアンチセンスRNAの取り組みが出ていました。中分子は薬物動態、細胞内移行性が問題になることが多く、その観点での議論が必要になってくると思います。
我々はグリーブラストーマの増殖にかかわる変異タンパク(二種)に対する阻害剤を見つけていますのでゼノグラフトモデルでの検証を進めていきたいと思います。
脳外科の研究者が必要なら、紹介します。
CART治療の弱点。
1:ガンだけに発現している抗原を見つけるのが難しい.
2:移植したリンパ球の移動の関係で固形がんに対しては大きな成果が生まれていない.
CD19をターゲットとして同定したのは、慧眼です。
固形腫瘍へのcyborg cell therapy、どんな展開になるか興味深いです。
このコーナー紹介の論文にも、多様なideaが見られます。