今年最初に紹介する膵臓癌に関するマサチューセッツ工科大学からの論文は、膵臓癌の強さが、周りの組織からタンパク質を吸い上げ自分の肥やしにする並外れた能力にあることを、ユニークな方法を用いて示した研究でNature Medicineオンライン版に掲載された。タイトルは「Direct evidence for cancer cell autonomous extracellular protein catabolism in pancreastic tumors (膵臓癌は細胞外のタンパク質を異化して利用する能力を持つことの直接的証拠)」だ。
正常細胞より高い増殖力を支えるために、がん細胞は高い代謝活性が見られることが普通で、これを新しいガン治療の標的とするため、ガンの代謝研究が最近加速している印象を持つ。
ガンが進行すると低アルブミン血症が起こることからわかるように、ガンではタンパク質代謝も上昇することが予想できるが、生きた動物の中でガン特異的にタンパク質代謝を調べることは簡単ではなかった。
この研究のハイライトは、生きた動物の中で、がん細胞がタンパク質を分解してアミノ酸として再利用する能力が高いことを示すため、
1)窒素13で置き換えたアルブミンを合成し、このアルブミンでマウズのほぼ全部のアルブミンを置き換える血清置換法を開発したこと、
2)分解されると蛍光を発するアルブミンや薬剤などの高分子を特定の組織に注入するための、マイクロビーズを用いた方法を開発したこと、
の2点だと言っていいだろう。
この方法を用いて、 1) マウス膵臓癌誘導モデルで、アイソトープ標識されたアミノ酸がガン細胞で蓄積していること、
2) 正常細胞と比べて、移植した膵臓癌細胞株はアルブミンを高率に取り込み、リソゾームでアミノ酸に分解すること、
3) リソゾームの活性を阻害すると、タンパク質の分解が低下すること、
4) アルブミンだけでなく、周りの組織からフィブルネクチンなどの細胞外マトリックスタンパクも取り込み分化していること、
などを明らかにしている。
話はこれだけで、はっきり言って、方法論の原理も結論も驚くほどのものではない。しかし、この結論を示すため、既存の方法を組み合わせて新しい方法へと最適化する努力については感心する。
結論でもこの研究によって、膵臓癌の進行にクロロキンが効くのは、オートファジーによるタンパク質などの再生をブロックするだけでなく、タンパク質の分解阻害も関わることを示している。
実際には、このような地道な努力が続く必要がある。膵臓癌の克服も少しづつではあるが進展していることを実感させる論文だと思う。