今日紹介するガンゲノムアトラス国際プロジェクトによる論文は、胃から食道にわたって発生したガン559例で、化学療法や放射線治療を行う前にがん細胞を摘出して、全ゲノム、多型、DNAメチル化、mRNA、miRNAについて解析し、新しい分類の確立を目指した研究でNatureオンライン版に発表された。タイトルは「Integrated genomic characterization of oesophageal carcinoma(食道ガンの統合的ゲノムによる特性)」だ。
これまで明らかにされたいたように、食道ガンでも腺ガンと扁平上皮ガンはゲノム上でも組織学的にも完全に分類できる。これをさらに分類可能か調べ、最終的に1−3型に分けられることを示しているが、ほぼこれまでの腺ガン、扁平上皮癌の分類で足りるように思える。また予想通り食道ガンのタイプと人種との関係は明確で、アジア人は1型、欧米人は2型が多く、3型はアメリカ、カナダにだけ存在している。これに生活習慣が加わり、かみタバコが普及しているベトナムではタバコによると見られる変異が強く見られるが、普通のタバコの影響はそれほどではない。日本人もそうだが、1型の場合はアルコール処理酵素の欠損と強く相関している。
この研究のハイライトは、胃ガンを、EBウイルス感染、マイクロサテライトの不安定性、染色体の不安定性、ゲノム全体の不安定性から4種類に分類し、この中の染色体不安定性を示す胃ガンと2型の食道ガン(腺ガン)のゲノム変異、遺伝子発現、メチル化DNAの分布などが極めて似ていることを明らかにしている。また、2型食道ガンにも染色体不安定性がみられる。
以上の結果から、食道ガンと胃ガンという単純な分け方ではなく、境界に発生する腺ガンは染色体不安定性を持つ共通のガンとして扱って、他のタイプとは分けて治療や予後予測を行うべきだと提案している。
食道から胃にかけての正常組織学から考えても当然の結果で、やはりガンのゲノムや遺伝子発現をしっかり調べた上で治療方針を立てることの重要性を示す結果だと思う。今後は、予後も含めさらに臨床に利用できるデータが発表されるのを期待する。