今日紹介するスタンフォード大学からの論文は内容は面白いが、実際に行われている解析については私の理解を完全に超えるケースの典型だ。タイトルは「Microstructural proliferation in human cortex is coupled with development of face processing (大脳皮質の微小構造の増殖が顔認識処理能力の発達と相関する)」で、1月6日号のScienceに掲載された。
この研究はMRIを用いて子供と大人を比べ、人間の顔の認識機能の発達に呼応した脳の変化を明らかにしようと試みている。この目的で、どの領域が顔の区別や、顔の記憶に関わるかを調べる機能的MRIと最近進歩してきたquantitative magnetic resonance imaging(qMRI)という手法を用いた組織の成分や構造を調べる方法を組み合わせて、顔認識に対応する領域の組織学をMRIを用いて調べている。ただ、この組織学的プロファイルは磁場にさらされたプロトンの緩和状態が水と高分子で異なることの指標となる緩和時間で全て代表されている。
研究では5−12歳の子供22人、22−28歳の成人25人について、顔と、場所の区別、記憶についての機能的検査を行うとともに、fMRI, qMRIでこの機能に関わる領域、及びその領域のプロトン緩和時間を調べる。プロトン緩和は高分子中のプロトンほど早いので、時間が短くなる(私の理解)。
結果は、顔認識と場所認識領域は明確に区別できる。それぞれの領域のプロトン緩和時間を測ると、顔認識に関わる領域の緩和時間は、子供の方が明確に大人より長い。一方、場所認識に関わる領域ではこのような差はない。これが結論の全てで、あとは領域と機能との相関の確認など、この結論の検証を行ったデータが中心だ。最後に、緩和時間の変化が、ミエリンに覆われた軸索の増加によるかどうかを調べ、これだけでは説明できないと結論している。また、実際の脳の組織学とも比べて、この緩和時間の変化がミエリンの増加だけでなく、樹状突起やグリアの増殖による変化であると推定している。
結論的としては、脳の組織学的発達は機能ごとに異なっていること、また発達に伴う組織学的変化は、これまで言われていたようなシナプス結合の整理だけではなく、ミエリンによる被服、樹状突起の増加、グリアの増加などを伴う場所があり、顔認識領域についてはこのような変化が著名に見られると理解していいのだろう。顔認識と、場所認識の発達がこれほど違っているというのは驚きだ。他人の顔色を伺いながら一生を過ごす運命の人間ならではなのか、あるいは他の動物でも同じなのか。さらには自閉症スペクトラムなどではどうなのか興味は尽きない
物理と数学をマスターしないと方法は理解できず、結局批判的に読むことはできないが、今後脳障害の症例の検討や、組織学的検討が進めば私の頭の整理がつく。しかし、本当なら面白い。