こんな記憶の問題を外から電磁波を脳に照射して操作しようとしている論文を最近見かけるようになった。このHPでもすでに同じ経頭蓋磁気刺激法(TMS)については、耳鳴りの治療(http://aasj.jp/news/watch/3789)や自己中心的衝動の抑制(http://aasj.jp/news/watch/5976)に使っている例を紹介した。もちろん記憶についてもこの方法が効果があるか研究が続いている。
今日紹介するシカゴにあるノースウェスタン大学からの論文もその一つで2月6日号発行予定のCurrent Biologyに掲載されている。タイトルは「Stimulation of posterior cortical-hippocampal network enhances precision of memory recollection(後頭皮質と海馬のネットワークを刺激することで記憶の正確さを促進できる)」だ。
同じグループは以前ScienceにCued Recallと呼ばれる記憶テストを用いてTMSの効果を詳しく調べ、記憶が改善するとともになんとfMRIで測定される皮質と海馬の結合が高まることを示していた(Science 345, 1056, 2014)。今回は、様々なイラストが散在する絵を見せて、特定のアイテムがどこにあったかを思い出す記憶テストで同じ実験を行ったものだ。このテストは、場所が変わっていたという一般的記憶だけでなく、間違いやすいアイテムの移動の距離から(アイテムが少しだけ動かされただけだと間違う確率が高い)、記憶の正確さを図ることができる。
研究ではこの課題に関わる脳活動の場所を、被験者一人一人fMRIで正確に測定し、その場所をめがけて電磁波を照射している。絵を見せて記憶させてから、毎日1回TMS照射を行い、7日目に記憶テストを行う。同じ被験者を次の週今度は電磁波照射を行わずに記憶テストを行い、照射の効果を調べている。期待通り、照射した場合に正確な答えを出す確率が5%ほど改善し、また間違いが起こりやすいアイテムの移動距離も平均で2mmほど改善している。特に物忘れの激しい人ではその効果が高い。
期待通りの結果だ。この研究では神経結合が上昇したかどうかについては調べていないが、代わりに脳刺激後1秒間の脳波を測定し、照射後0.5秒程度に4−13Hzの脳波の強さが選択的に低下していることを見出していること、またこの低下と、正しい答えを出す確率が一致することを示している。ただ、この変化の意味については今後の研究が必要だろう。
結果は以上で、かなり威力がありそうだと思える。ただ、検査は繰り返して行われており、5%の改善が実際にどれほどのものかよくわからない。そろそろこのような研究も、実際に期待される具体的効果と合わせて結果を示してほしいと思うのは年寄りだけではないと思う。