本題に入ろう。つい先日、ニコ動にも出演してもらったパーキンソン病の知り合いから、遺伝子検査でPINK1の変異が判明したと連絡を受けた。これは私にとっては驚きで、同じニコ動に出演してもらったもう一人の知り合いはすでにParkin遺伝子変異が判明している。すなわちこのニコ動に出演してもらった3人のうち2人に遺伝子変異が特定されたことになる。遺伝素因が明らかなパーキンソン病の発症頻度については把握していないのだが、おそらく意図せずにParkinとPink1遺伝子変異を持つかたに関わる確率はそう多くないと思う。これを因縁に、この二つの分子については重点的に論文を紹介したいと思う。 Parkinは標的タンパク質にユビキチンを結合するユビキチンリガーゼで、標的タンパク質の分解のスイッチを入れる分子だ。一方、Pink1はタンパク質のリン酸化に関わる分子だ。このParkinとPink1が、同じ経路を介してドーパミンニューロンの細胞死を調節していることはすでに確立した事実だが、両者の相互作用については不明な点が多かった。
今日紹介するジョンホプキンス大学からの論文はParkinとPink1がParisと呼ばれる分子の分解に関わり、細胞の生存を維持していることを示し、これら分子の変異がなぜパーキンソン病につながるかを示した研究で、1月24日号のCell Reportに掲載された。タイトルは「Pink1 primes Parkin-mediated ubiquityinization of Paris in dopaminergic neuronal survival(Pink1はParkinを介するユビキチン化を誘導しドーパミンニューロンの生存に関わる)」だ。
この研究ではまずParkin,Pink1,Parisの3分子がドーパミンニューロン細胞株で複合体を形成するという発見から始まっている。Parisは転写のコアクチベータで、PGC-1αと呼ばれるミトコンドリアのエネルギー代謝に関わる分子の転写調節に関わる重要な分子だ。この研究は、この3者の生化学的関係を詳細に検討し、
1) Pink1はParisの特定のセリンをリン酸化する。
2) Parisのリン酸化がシグナルとなり、ParisにParkinが結合し、ユビキチン化する。
3) ユビキチン化されたParisはすぐ分解される。したがって、Pink1,Parkinの変異によりParisの細胞中の蓄積を誘導する。
4) Parisの量が増えると、PGC-1αの転写が抑制され、ミトコンドリアの増殖など細胞のエネルギー代謝が障害され、最終的にドーパミンニューロンの細胞死が促進され、結果パーキンソン病になる。
というシナリオだ。このシナリオが正しいか、マウスドーパミンニューロンの遺伝子操作を用いて確かめており、他の経路ももちろん並存するが、この論文が示したシナリオがPink1,Parkinの関わる最も重要な経路だと結論している。
この経路が明らかになることで、細胞内のParis量を低下させる、あるいはPGC-1αを補うことで細胞死を防ぐ治療の可能性がクローズアップされる。特にPGC-1α遺伝子の注入治療は早く開発して欲しいと期待する。ただ、この治療はドーパミン神経が死んでしまうと役立たない。その場合はやはり細胞治療や遺伝子治療による、ドーパミン生産システムの再構成しかない。こちらの治療も加速して欲しい。
貴重な情報ありがとうございます。
細胞内のParis量を低下させる、
あるいはPGC-1αを補うことで細胞死を防ぐ治療の可能性。
PGC-1αの遺伝子導入治療法も考えられる。
→Gene Therapyが確立されると、これまでの基礎研究と臨床が一気に結びつき、多様な治療法が生まれる予感がします。