今日紹介するシアトルのフレッドハッチンソンガンセンターからの論文は不活化されたX染色体を再活性化する方法の開発についての研究で米国アカデミー紀要オンライン版に掲載された。タイトルは「Screen for reactiveation of MECP2 on inactive chromosome identifies the BMP2/TGF-βsuperfamily as a regulator of XIST expression(不活化されたX染色体上のMECP2遺伝子を再活性化する遺伝子スクリーニングによりBMP2/TGF-βファミリー分子がXIST発現の調節因子として特定された)」だ。
この研究では、MECP2遺伝子に光を発するルシフェラーゼ遺伝子と薬剤耐性遺伝子を融合させたX染色体を持つマウスから融合遺伝子を持つX染色体が不活化された線維芽細胞株を樹立し、薬剤耐性と発光を利用してX染色体の再活性化をモニターしている。
次にこの細胞に60000種類のshRNAを導入して様々な分子をノックダウンして、X染色体再活性化に関わる遺伝子をスクリーニングし、30種類の分子を特定している。この中には当然、X染色体不活化に関わる分子群が存在しており、例えば不活化の鍵XISTをノックダウンすると染色体は再活性化する。
この研究のハイライトは、スクリーニングにより、BMP2シグナル伝達経路に関わる分子が、Rnf12と呼ばれるユビキチン化酵素を介してX染色体不活化に関わることの発見で、このシグナルを抑制することで患者さんのX染色体を再活性化して、正常のMECP2を組織で発現させる可能性が生まれた。
この研究はここで終わっており、実際にモデルマウスの治療実験には踏み込んでいないが、BMP2シグナルを特異的に抑制する薬剤はおそらく存在しており、今後それを使った前臨床研究が行われるだろう。すなわち、遺伝子治療を待たなくとも、薬剤でMECP2遺伝子発現を正常化させる可能性が生まれた。是非期待したい。
モデルマウスの治療実験には踏み込んでいないが、BMP2シグナルを特異的に抑制する薬剤はおそらく存在しており、今後それを使った前臨床研究が行われるだろう。
→基礎研究が新しい治療法につながる。一つの疾患に対して、様々な視点から研究すると、様々な治療ideaが出てくる例だと思いました。