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2月9日:腫瘍のエピゲノム(Nature Medicineオンライン版掲載論文)

2017年2月9日
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   ほとんどのガンでは、発ガン遺伝子やガン抑制遺伝子を中心に、複数の遺伝子に変異が起こり、そのガンの性質を決めている。これがガンがゲノムの病気であると言われる所以で、ガンのゲノムを知ることが治療にとって重要な理由だ。ただガンの性質はゲノムだけでは決まらない。遺伝子のオン・オフを調節するクロマチン構造にも大きく左右される。例えば発ガンの初期に、DNA修復遺伝子のスウィッチがオフになり、ゲノムの変異を促進することはよく知られている。このクロマチン構造はDNAのメチル化と、DNAが巻きついているヒストンタンパク質のメチル化やアセチル化などの修飾により調節されている。21世紀に入って次世代シークエンサーが導入され、ゲノムだけでなく、クロマチン構造をゲノム全体にわたって調べる方法が相次いで開発された。こうして解読するクロマチン構造をエピゲノムと言うが、ガンのエピゲノム解読が加速している。
   今日紹介するオーストリアにある分子医学研究所を中心に26の研究所が集まる国際チームからの論文は、小児の肉腫の一つユーイング肉腫のエピゲノムを140人の患者から集め、DNAのメチル化状態を中心に調べた研究でNature Medicineオンライン版に掲載された。タイトルは「DNA methylation heterogeneity defined disease spectrum in Ewing sarcoma(DNAメチル化の多様性がユーウィング肉腫の疾患スペクトラムを決める)」だ。
   この研究の目的は、同じタイプの腫瘍のエピゲノムはどのぐらい多様なのか、また解読されるエピゲノムの違いは臨床症状の違いをどの程度反映しているのかを、メチル化DNAの分布から明らかにすることだ。
   ゲノム研究と同じかと勘違いされるかもしれないが、次世代シークエンサーが利用できるとはいえ、エピゲノムの解読はゲノム解読の何十倍も大変だ。それを140人について調べただけでも頭がさがる。
   さて、ユーイング肉腫はEWS遺伝子とFLI1遺伝子が転座で融合するゲノム変異が疾患の重要な引き金になっていることがすでに明らかになっており、しかもこれ以外のゲノム変化は極めて少ない。従って、病気の性質決定にエピゲノムの関与が大きいと考えられてきた。
   膨大なデータが示されているので詳細を省いて結果を箇条書きにすると、
1) ユーウィング肉腫のDNAメチル化パターンは他のガンと比べて、患者間の多様性が極めて大きい、
2) メチル化が低下している領域と上昇している領域を比べると、エピゲノムは決してランダムに決まるのではなく、ユーイング肉腫に特徴的なエピゲノムが存在する。これにはエピゲノム調節に関わるポリコム遺伝子のメチル化が関与している。
3) ガンの発生に関わるEWS-FLI1結合エンハンサー部位のメチル化パターンはほとんどの腫瘍で共通に低下しているが、クロマチンがオープンな領域でのメチル化パターンは多様。
4) DNAメチル化と、クロマチンの開き方、そしてヒストンアセチル化などを合わせて調べると、転写とメチル化パターンが相関しており、これが病気の共通性の基盤になること。
5) 一人の患者さんの肉腫細胞のエピゲノムの変化が大きいこと。
などを見出している。期待通り、ユーイング肉腫ではエピゲノムが変化しやすいことが明らかになった以外に、すぐに治療に結びつくわけではないと思うが、膨大なデータをどう処理するのかなど、学ぶところの多い論文だった。

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