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2月12日:アスピリンの発ガン抑制機構に関する新しい考え方(Cancer Prevention Research 2月号掲載論文)

2017年2月12日
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     科学的調査に裏付けられたガンの予防法はそう多くない。またその多くは、肺ガン予防のための禁煙、大腸・直腸癌予防のための低脂肪食・高繊維食のような生活習慣に関わるもので、薬を飲んで予防する安易な方法(ケモプリベンションと呼ぶ)は少ない。そんな中で、低用量アスピリンが大腸・直腸癌の発生を予防できることを示す研究論文は数多く、気楽にガンを予防したいという期待に答えている。もちろん、「必ず副作用もある薬でガンを予防するなどもってのほか」、という意見もあるのを承知の上で、私も楽な予防法として低用量アスピリンをずっと飲み続けている。科学的な調査に裏付けられれば、薬剤の作用メカニズムがわからなくて問題はない。ただ、アスピリンが標的分子Cox2に働いて、炎症を抑えるというメカニズムは詳しく研究されており、ガンが発生する組織の炎症を抑えることで発ガンが予防されるのだろうと理解してきた。
   今日紹介するテキサス大学からの論文はこれに対して、アスピリンの発ガン抑制効果は血小板のCox1を阻害して、ガンの増殖を促進する血小板の働きを抑えることを示す論文でCancer Prevention Research2月号に掲載された。タイトルは「Unlocking Aspirin’s chemopreventive activity: Role of irreversibly inhibiting platelet cyclooxygenase-1(アスピリンのガン抑制活性を解明する:血小板のシクロオキシゲナーゼ1の不可逆的抑制の役割)」だ。
   この研究では最初からアスピリンの効果は組織中のCox2抑制によるのではなく、血小板のCox1抑制の結果であるという仮説を立てて実験を行っている。実験手法は20世紀に帰ったような極めて古典的な方法だが、私には馴染みが深い。
これらの実験から、
1) 血小板は試験管内、及びマウス体内での癌細胞の増殖を促進し、この促進はアスピリンで抑制できる。
2) 血小板が分泌する分子はガンに働いて上皮型から間質型への転換を誘導し、ガンの浸潤を助ける。この活性もアスピリンで阻害できる。
3) 化学物質を食べさせて腸の慢性炎症を誘導しガンを発生させる実験系では、血小板増多症が誘導され、アスピリンは前癌状態の発生とともに、血小板数も正常化させる。
4) 同じモデルで血小板の組織内での集積が見られるが、これをアスピリンが抑制する。
などのデータが得られ、アスピリンの効果を考えるとき、血小板とそのCox1を忘れてはならないと結論している。
   アスピリンファンとしてはどちらでもいいが、使われた量が、予防に使う量の20倍という点は気になる。一方、同じように消化器症状のないフォスパチジルコリン・アスピリンの方が効果が高いことを示しており、できればこれも低用量型のタブレットの発売を期待したい。
   とは言っても、低用量アスピリンは儲からないのか、日本ではほとんど市販されておらず、私も外国から取り寄せている。厚労省は現在かかりつけ薬局を推進しているようだが、このような薬局の最も重要な使命は、日常の健康相談だろう。その意味でアスピリンや、あるいは低用量のスタチンなどは、このような薬局が機能するときの核になると思う。儲かる、儲からないではなく、制度をしっかりと根付かせるための材料としてケモプリベンション(薬剤による予防)を考えてもいいのではと思う。
  1. 橋爪良信 より:

    NSAIDとして一世を風靡したCOX2阻害剤ですが、心臓血管系のイベントが懸念されることとなり、ロフェコキシブが市場から回収されたことをご存知の方も多いと思う。本カスケードの下流のPGレセプターを阻害する鎮痛薬の探索研究に携わったものとして、一連のカスケードが再度注目されるのはうれしい限りであります。

    1. nishikawa より:

      コメントありがとうございます。

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