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2月15日:神経細胞は細胞毒をまとめて放出する(Natureオンライン版掲載論文)

2017年2月15日
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   アルツハイマー病のアミロイドβのように折りたたみがうまくいかなかったタンパク質や、ミトコンドリア病あるいはParkin2/Pink1変異によるパーキンソン病のように機能不全に陥ったミトコンドリアが増加すると、神経細胞が最初に影響される。すなわち、神経細胞は他の細胞と比べて特に様々なストレスに弱い。逆に、神経細胞はストレスを避けるため、シャペロンや、タンパク質分解系、オートファジー、マイトファジーなど様々なメカニズムを特に発達させている。
   今日紹介するニュージャージー州立大学からの論文は上にあげた既存のストレス軽減メカニズムに加えて、神経細胞特有のメカニズムが存在することを示した論文でNatureオンライン版に掲載された。タイトルは「C.elegans neurons jettison protein aggegates and mitochondria under neurotoxic stresss (線虫の神経細胞は神経障害性ストレスにさらされると凝集タンパク質やミトコンドリアを放出する)」だ。
   現象は面白いが、最後まで読むとちょっと物足りない感じがする論文だが、線虫の神経発生を仔細に観察する中で、著者らは細胞が4ミクロンほどの大きさの小胞を放出することに気づく。小胞という点ではエクソゾームもそうだが、大きさが全く異なっており、エクソファーと名付けている。エクソファーは大きさから細胞分裂と共通のメカニズムを使っている可能性があるが、全く異なるメカニズムで生成されることを確認している。
   さて、エクソファーは線虫の全ての触覚神経で観察することができるが、細胞の場所と発生段階に応じてできる頻度が異なる。また何よりも、細胞質でタンパク質が沈殿したり、ミトコンドリア機能不全が起こると、エクソファーの生成が増加する。凝集する蛍光タンパク質と、凝集しない蛍光タンパク質を同時に発現させた細胞で観察すると、エクソファーは凝集タンパク質を選択的に放出する役割を担っていることがわかり、またアルツハイマー病の原因になる変異Aβもエクソファーにより除かれることを確認している。また遺伝子ノックダウンによりタンパク質の処理がうまくいかなくなると、エクソファー生成が増える。
   凝集タンパク質だけでなく、ミトコンドリアのようなオルガネラもエクソファーにより放出される。パーキンソン病の原因の一つPink1のノックダウンなど、ミトコンドリアマトリックスが酸化するような遺伝子異常を誘導すると、エクソファーの数が増える。
   最後に、放出されたエクソファーの運命についても調べ、最終的に分解されるだけでなく、隣接する細胞や、あるいは間質液に乗って遠くの細胞に取り込まれる可能性があることを示唆している。すなわち、エクソファーが細胞毒性のある凝集タンパク質を他の細胞へ感染するメカニズムとしても考えられることを提案している。
   結局データは線虫でだけ示されており、同じメカニズムが私たちの神経細胞でも見られるのかどうかは今後の研究が必要だ。ただ、細胞をビデオで取り続けると、たしかに細胞質がちぎれることはよく観察されることから、全く荒唐無稽とは思えない。もともと神経は細胞の形態を大きく変化させる能力を持っている。ストレス誘導物質やオルガネラだけが選択的に除去されるメカニズムを明らかにして初めて市民権が得られるだろう。

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