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2月16日:細胞分裂とオルガネラの分配(2月3日号Science掲載論文)

2017年2月16日
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    細胞分裂は様々なチェックポイントで制御されている。DNAの複製が終わる前に分裂がはじまると細胞には死が待っているだけで、DNA複製をモニターして分裂のスウィッチを入れる精緻なメカニズムが存在する。他にも多くのチェックポイントがあるが、分裂時に細胞内のオルガネラを正確に2分することも重要なチェックポイントのはずだが、こちらについては研究はまだまだだ。
   今日紹介するロックフェラー大学からの論文はケラチノサイトの分化増殖を研究する中でオルガネラの一つペルオキシソームの分配機構を明らかにした力作で2月3日号のScienceに掲載された。タイトルは「Coupling organelle inheritance with mitosis to balance growth and differentiation(オルガネラの継承と細胞分裂を連鎖させて増殖と分化をバランスする)」だ。
   これは高い実力を持つFuchsの研究室からの論文で、最初ケラチノサイト分化課程の細胞増殖と分化のバランス調整に関わる分子を明らかにしようと研究していたところ、ペルオキシソームの分子Pex11bが特定され、その機能を徹底的に追求してペルオキシソームの分配メカニズムを明らかにした研究とまとめることができる。しかし読んでみると、ここまでやるかというほど徹底的で、大変な仕事だ。
   まず、イメージングフローサイトメーターと呼ばれる、蛍光を指標にしたフローサイトメーター分析をしながら、流れる細胞の写真を撮る技術を組み合わせた技術を用いて、未分化な幹細胞が、極性を獲得して縦に分裂を始め、最終的に扁平上皮になる過程の各段階の細胞を分類し、次にそれぞれの段階の遺伝子発現をRNAseqで調べ、分化へコミットする段階に関わると想定できる分子のリストを作っている。この技術は現役時代から知っていたが、なるほどと思える使い方を示す論文を読んだのはこれが初めてだ。
   次にリストされた800種類の遺伝子に対するRNAiライブラリーを作り、これを胎児羊水に注入してコミットメントに失敗した細胞に濃縮されるRNAi配列からコミットメントに関わる分子を特定している。当然予想される様々な分子が特定されるが、その中から予想外の分子Pex11bを選んでその後の実験を行っている。従って、これ以降の仕事はPex11bの細胞生物学と言える。
   あらゆるテクノロジーを駆使して得た結論は、
1) Pex11bはペルオキシソーム分子だが、ペルオキシソームの重要な機能である脂質代謝には関わらない、
2) Pex11bの欠損により細胞分裂期、紡錘糸の回転が阻害され、分裂が遅延する。ケラチノサイト分化の異常は、この分裂期の異常に起因する。
3) この異常は紡錘糸に結合して分布するペルオキソゾームの分布異常にリンクしている。
4) 紡錘糸に結合したペルオキソゾームの分布と紡錘糸の回転をリンクさせることで、ペルオキソゾームの娘細胞への分配が正確に起こるよう制御されており、このチェックポイントにPex11bが関わる。
5) ペルオキソゾームを光で活性化されるkinesin-3で微小管のプラス極に移動させると、分裂中期で細胞分裂が停止する。逆にダイネインを用いてマイナス極に移動させた場合は分裂は正常に進む。
以上、最後の光により活性化されるモーターを使ってペルオキソゾームの分布を操るなどは圧巻だが、ケラチノサイトの分化とオルガネラの分配の両方についての解析で、発生学と細胞生物学が不可分であることがよくわかる。しかし、ケラチノサイト分化という観点でこの仕事をみると、力技でオルガネラ分配のチェックポイントに話を集約しているという印象があり、特に革新的な概念の変化が生まれたわけではない。確かに完璧を目指した研究のやり方には近寄りがたいものもあるが、だからといってこの分野の若手研究者も、圧倒される必要はないと思う。

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