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3月16日:クラスルームでの活動を音で判断する(米国アカデミー紀要オンライン版掲載論文)

2017年3月16日
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   教室内でどのように教育が行われ、学生がどのように反応しているのかを知ることは教育方法を改善するためにも重要だ。
   一般的には今も多くの人が、教育効果は教師の能力にかかっていると思っていると思う。事実、私自身が教育を受け、また教育に携わってきた経験から言うと、確かに教師の能力は重要だと思う。しかし、国全体で高い教育効果を上げるためには、最終的には生徒が選べない教師の資質にだけ頼るのではなく、教材、ビデオやPCなどのメディア、そしてそれを生かすための教育指導要領を作ることが重要だ。しかしこれも言うは易く、行うは難い。
   今日紹介するサンフランシスコ州立大学を中心とするグループの論文は教室で行われている教育手法を、音を使ってモニターできるアプリ開発を目指した研究で米国アカデミー紀要に掲載された(www.pnas.org/cgi/doi/10.1073/pnas.1618693114)。タイトルは「Classroom sound can be used to classify reaching practices in college science course(大学の科学教育の実行を教室での音を用いてモニターできる)」だ。
   この研究に参加しているのはほとんどがサンフランシスコ近辺の大学で、おそらく州政府などの強い後押しがあるのだろう。アメリカの大学教育で今問題になっているのが数学・物理・化学・生物学などを教える科学教育で、これをレクチャー方式ではなく、もっと生徒のイニシアチブに基づく、アクティブラーニングに変えるための取り組みが行われているようだ。
   ただ、どの程度の大学でこれが行われているのか、全米規模で調べるためには、熟練した検査官が必要になり、簡単ではない。そこで、これを人工知能でやれないか研究を始め、単純に教室内の音を記録し、それをコンピユータに判断させることで、どのタイプの教育手法が使われているのかモニターできることを示している。
   具体的には教室内での音や映像を全てモニターし、音の強弱のパターンだけをPCにインプットするとともに、その時点時点で何が行われていたか、三人の熟練の検査官に解読してもらって(例えば教師が講義している、生徒が相談している、などなど)、その解釈を同じPCにインプットする。このようなデータを機械に学習させて、最終的にDARTと呼ぶ音のパターンからクラスルームでどのような活動が行われているのか読み解くアルゴリズムを作っている。
   結果は満足できるもので、十五人規模の小クラスから、287人規模の大クラスまで、ほぼ正確に「先生が講義している」、「学生が討論している」「全員が考えている」「議論結果を共有している」といった活動を正確にモニターすることができる。実際には、熟練検査官との一致率は90%を超える。
   最後にDARTを使って様々な大学での科学授業を分析させ、クラスで行われている教育スタイルを図表化し、どのように教育が行われているのか誰もが簡単かつ正確に把握できるようになったことを示している。興味を引くのは、アメリカの大学の科学教養授業で、3割近くが初めからアクティブラーニングを取り入れており、また8割以上が授業のどこかでアクティブラーニングを取り入れているという結果だ。専門教育になるとさらにこの傾向が強い。
   AIと言っても全時間のビデオ記録などは情報量が多すぎて役に立たないことが多く、できるだけ単純な指標を用いることが重要になる。自分の経験から判断しても、音を使うのはクラスルームの活動をモニターするという観点からは理にかなっており、直感的にグッドアイデアで、今後改良を重ねれば実用性の高いツールになると思う。もちろんこのツールにより、実際にはどの大学の誰がどのような方法で教育しているのかが一目瞭然でわかるようになるだろう。評価という視点ではいいが、評価される側にとっては大変だろう。また、これは大学の話だが、このアイデアを進めると、小学校から高校まで全てのクラスルームをモニターすることが可能になる。例えば、全てのクラスで授業がモニターされ、問題を早期に診断することができるようになるだろう。
   このような手法の採用には異論も多いと思うが、私は検討に値すると思う。しかし、まず我が国では問題にならない大学での教え方を問題にするこの取り組みには感心した。結局私は旧来依然たる教育法を使っていると判定が下されることまちがいない。

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