今日紹介するアイオワ大学からの論文は統合失調症で特異的に異常が見られる前頭前皮質と小脳の深部に存在する神経核の連合の異常を指標に、統合失調症の治療法開発まで視野に入れた研究でMolecular Psychiatryオンライン版に掲載された。タイトルは「Delta-frequency stimulation of cerebellar projections can compensate for schizophrenia-related medial frontal dysfunction(小脳投射に対するデルタ波長刺激は統合失調症に関連する前頭前皮質機能異常を代償する)」だ。
この分野は全く読んだことがなく、何を読んでも面白い。統合失調症に前頭前皮質(MFC)の回路の変化が関わることは知っていたが、特に小脳の外則深部にある神経核(LCM)との連結の低下がこの異常に関わり、LCMの刺激により統合失調症の一部の症状が改善するらしい。研究の困難にもかかわらず、少しづつ理解が進んでいる印象を受けた。
この研究では、MFCとLCMの連合を、頭の中で時間を測る能力を調べることで検証できるという従来の結果に着目し、研究を始めている。驚いたことに、この時間を測るテストは、患者さんだけでなく、両親や子供のような近い親族で既に見られるらしい。
研究では統合失調症の患者さんで確かにこの課題に異常が見られることを確認するとともに、この課題を行っている時に普通の人のMFCでは見られる周期の低いデルタ波が著明に低下していることを発見する。
このデルタ波の低下が、LCNとMFCの相互作用の結果で、時間を測る能力と関わるかどうかを今度は脳の活動や連絡を自由に操作できるラットを使って調べ、LCN細胞を消失させると時間を測る能力がなくなること、そしてLCNとMFCは直接の連合がないものの強く同調していることを明らかにしている。
最後に、やはりラットモデルでMFCのドーパミン受容体をブロックした系でLCNをデルタ波長で刺激すると、MFCのデルタ波が回復することを確認している。
話はこれだけで、動物と患者さんに同じ課題を課すことで、これまで想定されてきた小脳から前頭葉への回路の不全が統合失調症に関わる可能性を明らかにするとともに、この回路を刺激することである程度症状を改善できる可能性を示唆している。
すでに小脳の刺激は患者さんに使われているようで、どの症状が改善するのか興味がある。私が付き合った何人かの統合失調症の患者さんからの乏しい経験でしかないが、患者さんが頭の中に描いている自己のイメージが、実際に感覚される身体イメージからかけ離れている気がいつもしていた。その意味で、運動を司る小脳の回路が重要だという話は妙に説得力を感じて読んだ。