今日紹介するスタンフォード大学からの論文はこ延髄にある呼吸中枢と、大脳の高次機能とをつなぐ回路についての研究で3月31日号のScienceに掲載された。タイトルは「Breathing control center neurons that promote arousal in mice(呼吸中枢に存在してマウスの覚醒状態を促進する神経細胞)」だ。
極めてオーソドックスな研究で、最初から呼気、吸気のサイクルを生成しているpreBötzinger complex(preBC)と呼ばれる領域に、大脳の他領域と連絡して呼吸リズムを変化させる神経細胞が存在するとあたりをつけ、preBC領域に存在するニューロンを分類するための分子標的を探索、preBC領域の細胞はカドヘリン9(Cdh9)を発現しており、この細胞をさらにDbx1受容体(DBX1)を含む様々な分子の発現で分類できることを明らかにする。
次に単一細胞の活動記録からCdh9+DBX1+細胞が吸気の前に強く興奮することを発見する。すなわち、吸気前に活動するこの細胞が大脳の高次機能と呼吸をつなぐ接点になっている可能性が高い。
そこで、詳細は省くが、Cdh9と DBX1を両方発現した細胞だけをジフテリアトキシンで除去できるようにしたマウスで、ダブルポジティブ細胞を除去してマウスの呼吸を調べ、この細胞が失われても普通の呼吸は正常に維持されるが、遅いリズムの呼吸が増えること、さらに全般的にせかせかせず静かに行動し、波長の低いデルタ波が頻回に出るようになることを観察している。
デルタ波の上昇は大脳の青班核が壊された時に起こることがわかっており、著者らはpreBCからの軸索投射を調べ、期待どおり青班核への投射を確認している。 最後に機能的実験から、Cdh9+DBX1+細胞が除去されたマウスでは、新しい環境に置かれて興奮した時見られる青班核細胞の興奮が低下することを示し、Cdh9+DBX1+細胞の投射が機能していることも示している。
以上の結果から、呼吸中枢ではリズムを形成して呼吸がコントロールされているが、このリズム形成に直接関わらないCdh9+DBX1+は、青班核へと投射して呼吸のリズムと脳全体の活動とを連結しているという結論を導いている。
最後に深呼吸について考えてみると、普通心を落ち着かせるためには様々な努力が必要だが、意識的に調節できる呼吸リズムを遅くすることで、Cdh9+DBX1+細胞の活動が抑えられ、その結果青班核を介して脳全体が落ち着く方向へ調節できるということになる。なぜ呼吸調節だけで、気持ち全体が変化するのかしっかり勉強できた論文だった。