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4月8日:老いと眠り(4月5日号Neuron掲載総説)

2017年4月8日
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   今日紹介するのは研究論文ではなく、老いに伴う眠りの障害についてのこれまでの研究をまとめたカリフォルニア大学バークレー校のグループによる総説で、4月5日号のNeuronに掲載されている。タイトルはズバリ「Sleep and human aging(眠りと人間の老化)」だ。
   この総説に目が止まったのは、当然私が高齢者で、若い時と比べると眠りが大きく変化したことを感じているからだ。しかし、なかなかこのようなテーマを直接扱った総説を目にするものではない。5ページにわたって200を越すこの分野に関わる文献が集められており、この総説を書く時の著者らの意気込みがわかる。
   結局今日の内容は、もっぱら「老いと眠り」の問題を感じている私のためのメモだと思ってほしい。
老いによる眠りの変化
  自覚的変化として、1)早寝早起きになる、2)寝つきが悪い、3)睡眠時間が短くなる、4)何度も目がさめる、5)ちょっとしたことで起きてしまう、6)昼に眠たくなりやすい、がリストされている。個人的には1)、3),6) が当たっているが、あとはあまり思い当たらない。
   これを脳波で見ると、1)深い徐派睡眠が減る、2)浅いノンレム睡眠(NRS)が増える、3)レム睡眠(RS)とNRSのサイクルが短くなり、サイクル数も減る。
   脳波では、サイクルの遅いslow wave(SW)の落ち込みが激しいが、この低下は中年から始まる。場所的には前頭皮質で最も著しい。若い人のSW睡眠は、長時間睡眠を制限された後の睡眠で起こってくる、代償的な睡眠と言われている。実際、年をとると睡眠が制限されても、その後代償的に熟睡することが減るのも、このSWの減少に関わるのだろう。    もう一つの特徴は視床と皮質をつなぐ神経回路が早いサイクルで興奮するsleep spindle(SS)が、振幅や頻度で著明に低下する。
男女差
  生活のリズムが同じなので、睡眠のサイクルも夫婦で大体一致していると思っているが、なんとなく「カミさんの方が寝つきが良さそうだ」と感じている。これはまんざら間違いではなく、男の方が脳波上でのSWの減少がはっきりしている。    一方、夢を見る時間に相当するレム睡眠や、眠りの制限に対する反応の鈍化などについては男女差ははっきりしない。    とはいえ、眠りの問題を訴える人の割合ははるかに女性の方が多いらしく、なぜこんな現象が起こるのかと締めくくっている。 メカニズム
   なぜ眠りの変化が起こるのかについて、以下の病理的変化が指摘されている。
1) 視索前野にあるガラニンを分泌する神経の数が年齢とともに低下し、この神経の数と眠りの異常が相関する。
2) オレキシンを発現して覚醒状態を維持する視床下部領域の細胞の低下。
3) 皮質の灰白質の量の低下。
病理的変化に加えて、覚醒睡眠のサイクルに関わるアデノシンに対する受容体の発現変化も指摘されている。寝るのを妨げると、細胞外のアデノシン濃度が上がり、睡眠を誘導するが、高齢者ではアデノシンの濃度が上がっても、それを感知する受容体の発現が低下しているため、代償的な睡眠が起こりにくい。
   また、睡眠・覚醒に関わる概日周期に関わる、視覚交差の直上にある神経細胞の減少による、概日周期の支配力の現象もメカニズムとして指摘されている。
   基本的には、神経細胞の減少が主要な要因になっており、SW、SSの現象の主要原因になる領域もかなり明らかになっている印象だが、結論は神経細胞を老化から守れぐらいしか言えないように思える。この総説でも、アルコールが皮質の減少に関わることが述べられているが、やはり晩酌は止められそうにない。
眠りの異常と記憶
   やはり最も気になるのは、老化に伴う眠りの異常により、記憶の低下が進むかどうかだ。結論だけを言えば、これは間違いなさそうだ。もともと、眠り自体が学習能力を高め、記憶を固定する重要な機能があることがわかっている。従って、学習能力を高めるSSの低下は、起きた後での学習能力を低下させるし、記憶の固定に関わるSWの現象は、記憶を低下させる。
   従って、眠りを元に戻すことができれば、記憶や学習能力が戻る可能性があるが、眠り自体が脳の器質的な変化によるなら、これも難しそうだ。
老いても寝たほうがいいのか?
  年をとれば睡眠が変化するのは当たり前と思っているが、無理をして寝たほうがいいのか、自然に任せればいいのか。これについても議論されているが、どちらと結論できず、賛否両論が併記されている。
以上読んでみて、納得し、物知りになった気分にはなったが、残念ながら生活をどう改めればいいのか、結局わからずじまいで終わった。

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