日本は、臨床治験の結果についての論文が捏造だったかどうかで大揺れだ。これも困るが、10月29日号のBritish Medical Journalに載った論文を見て、逆の問題もあることを認識した。論文は、Non-publication of large randomized clinical trials: cross sectional analysis (無作為化した大規模臨床治験が論文発表されない問題:断面解析)という論文で、Cooper医科大学からの論文だ。2005年から臨床研究については、始める前に計画を登録することが要求されるようになっている。このおかげで、実際にどのような臨床治験が行われているかを把握できる。この研究は、登録された大規模治験で、計画が終了したと報告されている治験のうち、論文として発表されない場合がどの程度あるかを調べたものだ。結果は驚くべき物で、500人以上の参加者が得られた大規模治験で、結果をまとめればともかく論文にはなると思われる治験の内30%近くが全く論文として発表されないことがわかった。この論文にならなかった治験に参加した患者さん達はなんと30万人に及ぶ。更に論文として発表しなかった治験の内8割弱が、登録機関にも成績を発表していない。
無作為化した大規模臨床治験は、自分に偽薬が来るかもしれない事をわかった上で、参加していいという人たちにより支えられている。多分思ったような結果が得られなかったので論文にしなかったと思われるが、うまく行かなかった治験も結果は結果だ。最近ネット上にあるデータを、違う視点で見直すことがよく行われる。その意味でも、人間が参加したトライアルは公共のデータであり、全て査読に回して論文にすることが重要だ。治験は科学だ。そして、科学はある結論について他の人とコンセンサスを形成する手続きだ。ことなめ、論文として発表するために厳しい査読が行われる。これにより、データの信頼性を科学界で保証する。だからこそ、捏造は許せないのだが、同様に尊い参加の上に得られた公共のデータは、科学の手続きを経た上で、残すのが筋だ。治験を行う限り社会の責任が優先すると覚悟すべきだろう。まさに製薬会社や医師の倫理が問われる。しかし、捏造で論文を取り下げたら、やはり参加者を裏切る事になる。悲しい事だ。
大規模臨床治験の多くが論文にならない。(11月5日British J.Med論文)
2013年11月5日