今日紹介するマサチューセッツ総合病院からの論文もタイトル(「Macrophage facilitate electrical conductance in the heart(マクロファージは心臓での電気刺激伝達性を高める)」)を見たとき「どうしてこんなことがわからなかったのか?」と思ってしまった。しかし本当なら臨床的にも重要な発見で、当然4月20日号のCellに掲載された。
イントロダクションを見る限り、何か強い動機でこの研究を始めたわけではなさそうだ。マクロファージの中には、組織に居着いて機能する集団がある。典型的なのが肝臓のクッパー細胞で、古い赤血球を取り込んでヘモグロビンの分解に関わっている。当然心筋の中にマクロファージが多く存在すると言われても誰も不思議に思わない。ただ、このグループは心臓でのマクロファージの分布を房室結節(AVN)と心室に分けて詳しく見たところ、AVNに密集していることに気づき、何か機能があるのではと疑ってかかった。
あとは蛍光抗体法や遺伝子発現、あるいは血管を融合させるパラビオーシスを用いて、AVNのマクロファージ様細胞が循環によってリクルートされるマクロファージであること、そして心筋と同じ様にコネキシンを発現してギャップジャンクションをAVN細胞と確立していることを明らかにしている。
次に、遺伝子発現からマクロファージ自体もチャンネルを発現しており、生理的にも興奮性の膜を有しており、心筋の興奮に応じて同じ様に興奮していることを確かめる。
ここまでくると、なるほどと読む方も真剣になる。これに続いて、様々な生理学的実験が行われ、マクロファージがあると心筋の膜電位がプラス側に偏り、より興奮しやすくしていることを明らかにする。これを体内で確かめるために、チャンネルロドプシンをマクロファージで発現させ、取り出した心臓に光を当ててマクロファージを興奮させると、刺激中に房室電導率が上昇することを発見する。
最後にマクロファージのコネキシンをノックアウトしたり、マクロファージ自体を一過性に除去する実験から、マクロファージと心筋や伝導系との結合が消失すると、刺激伝達速度が低下し、マクロファージを完全に除いた実験では、最終的に房室ブロックに至ることを示している。
細胞生物学、生理学、分子遺伝学実験を組み合わせた説得力のあるデータで、なぜ関与する様になったのか、進化的疑問はともかく、十分納得できた。今後様々な不整脈へのマクロファージの関与を調べる研究が増えるトレンドを作る、臨床的に重要な論文になるかもしれない。 タイトルで惹きつけて、読後も納得できる論文は面白い。