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4月27日:キチンによる肺の慢性炎症(4月20日号Cell掲載論文)

2017年4月27日
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    キチンは真菌から動物まで自然界に広く分布しているアセチルグルコサミンが重合したポリマーで、昆虫やエビカニの外骨格の主成分になっている。あまりに当たり前の分子で、医学の対象としてはあまり研究されてこなかったが、最近になってキチンを認識するレクチンにより自然免疫が誘導され、肺や腸粘膜を障害することがわかってきて俄然注目を集めている。
   今日紹介するカリフォルニア大学サンフランシスコ校からの論文はキチンの蓄積が老化に伴う肺線維症を誘導することを明らかにした研究で4月20日号のCellに掲載された。タイトルは「Spontaneous chitin accumulation in airways and age-related fibrotic lung disease(自然の過程で気管にキチンが蓄積すると加齢に伴う線維性肺疾患が発症する)」だ。
   今でもキチンを健康食品として販売する会社もあるようだが、実際キチンは体に良い働きをしていると考えられてきた。しかし、自然免疫誘導能が明らかになってから、キチン分解酵素を過剰発現させたマウスを作って調べると、キチンに対する自然免疫が低下していることが明らかになり、キチンの蓄積は肺や腸に悪い効果があるのではと疑われるようになった。
   この研究ではキチンを分解するキチナーゼ遺伝子操作を通して、肺でのキチンの機能を調べている。まず、キチナーゼ発現細胞を標識遺伝子ノックインマウスで調べると、気管上皮の分泌型細胞で発現すること、またキチナーゼ遺伝子は定常的に発現しており、発現レベルがIL-13などの炎症シグナルで上昇することを確認している。
   次に、キチナーゼノックアウトマウスを調べると、1歳ぐらいから急に肺機能異常が見られるようになり、2年以内に50%以上のマウスが死亡することがわかった。組織学的には気道にコラーゲンが蓄積する肺線維症が主病変で、組織にはT細胞の浸潤が見られることから免疫性の炎症の結果線維症が起こったことがわかる。
   キチナーゼ欠損マウスとキチナーゼトランスジェニックマウスを掛け合わせて、気道でのキチナーゼを回復させると、キチン蓄積が抑制され、炎症や線維症を抑制できることがわかった。また同じ効果は、キチナーゼ分子を直接気道に噴霧する実験でも確認される。
   最後に様々な間質性肺疾患の洗浄液を調べると、キチンの量が上昇していることを明らかにした。おそらく、上皮のキチナーゼ活性が様々な間質性肺疾患で低下し、キチンが蓄積することが、肺の炎症を持続させ線維化を誘導すると結論している。
   一般的にはそれほど面白いとは思えない論文かもしれないが、呼吸器の医者からスタートした私にとってキチンが肺を障害することは驚きだ。もともと老化により肺機能が低下するが、この一因がもしキチナーゼ活性の低下であるなら、キチナーゼの吸入補給により老化に伴う肺機能低下も防げるかもしれない。いずれにせよ、肺機能にキチンが関わるなど想像できない組み合わせだった。

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