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5月1日:土に還ってもDNAは残っている(Scienceオンライン版掲載論文)

2017年5月1日
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    ドイツ・ライプチヒのマックスプランク研究所の前所長スベンテ・ペーボさんたちの地道な努力により、石器時代の人骨が残っておれば、DNAを抽出し、塩基配列を決める方法が確立し、ゲノム解析は今や考古学に欠かせない技術になっている。10年余り、この分野の研究論文を読んでいると、古代のヒトゲノムのみ解読する方法の開発と並行して、質のいいDNAが得られる骨の種類も明らかになり、この技術が一般にも利用できる方法に発展してきたのがわかる。
   このように質のいいDNAを求める方向と並行して、これまで質が悪いとして使われなかったDNAも使い尽くすための研究が進んでいたようだ。今日紹介するライプチヒ・マックスプランク研究所からの論文は、石器時代の人骨が見つかった住居跡の土からDNAを採取して解読できるか調べた論文で、Scienceオンライン版に掲載された。タイトルは「Neandertal and Denisovan DNA from Pleistocene sediments(石器時代の堆積物から採取されるネアンデルタール人とデニソーワ人のDNA)」だ。
   鉱物はDNAなどの有機物を吸着して守ってくれる働きがあることがわかっている。このため、土壌からDNAを採取して生息していた動物や植物を推定するための方法が進んでいたようだ。この研究は、これまで開発された方法を、考古学にも利用するための条件設定を主目的にしている。したがって、すでに考古学やゲノム解析が進んでいるヨーロッパ及びシベリアの7箇所(1.4−5.5万年前の石器時代遺跡)の土を採取し、そこから哺乳動物のミトコンドリアDNAを精製、ライブラリーを作成して配列を決めている。論文は、最終的に人間のミトコンドリアDNAの配列を読解するまでの過程を順を追って示している。
   まず驚くのが、土壌から得られたDNAの79-96%が全く由来がわからない点だ。要するに、私たちがゲノムを解読できた生物は限られている。このわけのわからないDNAから目的のDNAを採取するため、哺乳類ミトコンドリアを広くカバーできる242種類のプローブを作成し、土壌DNAから前もって哺乳動物mtDNAを精製している。その結果、それぞれのライブラリーから14-50114種類のmtDNA配列を読むことに成功している。これは12種類の哺乳動物に対応し、もちろんマンモスや当時生息していた毛むくじゃらのサイ、クマ、シカ、狼、ハイエナなど、ヨーロッパやシベリアに多くの動物が暮らしていたことがわかる。なんと、現在アフリカに生息するハイエナとほとんど同じハイエナすらヨーロッパに生息していたようだ。
   次に原人のmtDNAに焦点を絞ってライブラリーを形成して解読を行っている。今回選んだ遺跡の土壌からは、デニソーワ人のmtDNAが一種類、ネアンデルタールのmtDNAが8種類特定されている。新しい人種などは発見されていないが、これまでのゲノム配列と対比することで、土壌からのDNAも各住居跡の原人の系統関係を相当正確に明らかにするために利用できることがわかった。特に同じ遺跡から発見される複数の異なる系統の今後の解析は面白い。
   この研究で最も懸念されるのが、DNAが他の年代の地層に浸透しないかという点だが、幸い鉱物に吸収されることで、同じ年代の地層に止まることも分かった。
   研究はこれだけで、メッセージとしては地味だが、mtDNAについていえば、骨から得られる量に匹敵するぐらいのDNAを得ることができることがわかり、古代人の系統関係や生活状態など、さらに詳しい解析が可能であることを期待させる論文だと思う。ミトコンドリアは母型なので、系統交流についても面白い話がわかるような気がする。

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