実際、アミロイドプラークの量や脳の萎縮程度と認知機能の低下は必ずしも相関しないし、病状の進行もよくなったり悪くなったりと変動し、一本調子ではない。この原因として、例えば介在神経が失われる結果起こる神経細胞の異常活動が認知機能の低下に一役買っているのではないかと考えられてきた。特に動物のアルツハイマーモデルで、睡眠中に神経細胞の過興奮が見られることが示されていた。
今日紹介するマサチューセッツ総合病院からの論文は、アルツハイマー病の患者さんには頭蓋の外から検出の難しい神経細胞過興奮が存在するのではないかと最初から仮説を立て、2人の患者さんに口腔内から頭蓋の卵円孔を通して留置する電極を設置し、細胞レベルの神経活動を連続的に海馬で記録した研究で、いわば症例報告ではあるが、発見の重要性からNature Medicineオンライン版に掲載された。
タイトルは「Silent hippocampal seizures and spikes identifyied by foramen ovale electrodes in Alzheimer’s disease(卵円孔電極を用いてアルツハイマー病で記録される自覚されない海馬のてんかん発作と神経興奮スパイク)」だ。
口から卵円孔電極を脳内に留置するなど恐ろしく聞こえるが、てんかんの診断のために確立した方法で、これにより脳内の神経細胞の活動を連続的に調べることができる。この研究では2人の進行性のアルツハイマー病の患者さんで、これまでてんかん発作の経験が全くない2人を選び、卵円孔電極を留置し海馬局所の神経活動を記録すると同時に、一般的な脳波記録を調べている。
結果は予想通りで、2人とも一般的な脳波検査ではほとんど異常興奮を検出できないが、神経の過興奮を検出することに成功している。
もう少し詳しく紹介すると、最初の患者さんでは、覚醒時には通常の脳波計では異常は検出できないが、龍ちゅ電極では1時間に400回程度の過興奮を観察できる。驚くのは睡眠時で、通常の脳波計でも時間あたり50回程度の異常活動を検出できるが、電極からはなんと800回を越す過興奮が観察されている。 もう一人の患者さんでは脳内電極からも覚醒時に異常興奮を検出することはないが、睡眠時には正常脳波計では検出できない過興奮が1時間に200回程度検出されたという結果だ。 最初の患者さんには一般的にてんかんに使われう抗てんかん剤を服用させると、過興奮を止めることができているが、もう一人の患者さんでは副作用で服用は断念している。 結果はこれだけだが、予想どおり海馬神経細胞の過興奮が見られること、しかも記憶が確定するために重要な睡眠時間中に過興奮が起こりやすいことを示すこの結果は今後アルツハイマー病の病態を考える上で極めて重要だと思う。
この発見が睡眠中の過興奮をうまく抑えて病気の進行を食い止める方法が開発につながってほしいと期待する。