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5月13日:リンパ浮腫に対する薬剤の開発(5月10日号Science Translational Medicine 掲載論文)

2017年5月13日
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    私たちの事務所で毎月一回、神戸の「がん楽会」の皆さんが集まって、情報交換をされている。私自身が事務所に居れない日なのでお話を聞くことができていないが、この会話を聞いた事務所のメンバーから、「リンパ浮腫により生活の質が侵されることはかなり重要な問題になっているようなので何かいい治療法はないのか?」といつも聞かされている。しかし、私もほとんど答えるアイデアがなかった。手術でリンパ節を郭清するとリンパ浮腫は必発する。根治はリンパ管がもとどおりになることだが、それを促す薬剤はこれまでほとんど開発されてこなかった。従って、姿勢を変えたりマッサージしたり、あるいは皮膚のケアを欠かさないなど、根本治療とは程遠い対策しか医師も出しようがない。
   今日紹介するスタンフォード大学からの論文はリンパ浮腫に我が国で長期に使われているベスタチンという薬剤が効く可能性があることを示した研究で5月10日号のScience Translational Medicineに掲載された。タイトルは「Leukotriene B4 antagonism ameliorates experimental lymphedema(リューコトリエンB4阻害により実験的リンパ浮腫が軽減する)」だ。
   このグループは2009年、モーラステープとして一般にも知られている湿布薬中のケトプロフェンがリンパ浮腫に効果があることを報告し、ケトプロフェンの治験については現在進行中だ。ただ、湿布として使うには問題ないが、ケトプロフェンには様々な副作用が予想されるため、長期間の使用は難しい。そこで、ケトプロフェンの作用機序を明らかにして、治療に使える薬剤の幅を広げるのがこの研究の主目的だ。この研究では、マウスの尻尾の根元のリンパ幹細胞を除去してリンパ浮腫を誘導するモデルが用いられている。
   多くの実験が示されているが、詳細を省いて箇条書きにまとめると次のようになる。
1) リンパ浮腫に対するケトプロフェンの作用はリューコトリエンB4(LTB4)を介している。
2) LTA4からLTB4が合成される経路で働くベスタチンがリンパ浮腫抑制に最も強い効果がある。
3) LTB4は低濃度ではリンパ管新生にポジティブに働くが、高濃度では抑制的になる。すなわち炎症初期にはリンパ管新生は刺激されているが、LTB4が高濃度になる後期では、抑制される。これは炎症を限定する意味がある。
4) ベスタチンも炎症初期に使うと逆効果になり、LTB4の高い時期にのみ効果がある。
5) リンパ浮腫のある患者さんの血清中LTB4は著名に上昇している。
6) LTB4はリンパ内皮細胞のVEGFR3,Notchシグナルを介して、低濃度ではリンパ管再生を促進、高濃度では抑制する。また、ベスタチンにより、このシグナルが抑制される。
結果は以上で、ベスタチンは少なくとも実験モデルではリンパ管再生、リンパ浮腫抑制に働くことが明らかになった。
  嬉しいことにベスタチンは白血病治療の補助薬として、特に我が国で使用されてきた薬剤で、副作用は軽く長期に投与可能な薬剤だ。したがって、すぐにガン患者さんのリンパ浮腫にも効果があるか治験を行うことは可能だろう。ぜひ特効薬になってほしいと願っている。

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