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5月20日:知性と宗教心(5月16日号Evolutionaly Psychological Scienc載論文)

2017年5月20日
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  フランスの大統領選挙は我が国でも注目されたが、いつもうらやましく思うのはフランスが続けている完全な政教分離政策だ。これは教育から宗教を完全に排除することから始められたが、一連の動きを推し進めたのがのちに首相になるジュール・フェリー教育相だ。これを実現するためカソリック系の小学校に軍隊を差し向けて教壇にある十字架を外したと読んだことがある。だからこそ、教師が宗教と思想の自由を理由にブルカをまとうのは許されない。
   首相や議員が、まだ成熟していない幼稚園児が教育勅語や様々なスローガンを叫んでいるのを見て感激し、宗教政党ですらそれを不思議ともおもわず支持している我が国と比べると、知性の違いを感じざるを得ないが、今日紹介する論文を読んでいて私の感覚の方がこの国ではおかしいのだろうと納得した。
   今日紹介するのはロンドン・アルスター社会学研究所からの論文で宗教と知性の問題について述べた一つの意見だが、「Why is intelligence negatively associated with religiousness?(なぜ知性は宗教心と逆相関するのか?)」というタイトルを見ただけで読んでしまった。論文はEvolutionary Psychological Science5月16日号に掲載されている。
   ジュール・フェリーが知っていたのかどうかわからないが、おそらく宗教は知性と対立するという強い信念がないと、あそこまで強い政策を取ることはできないだろう。この論文は、ギリシャのユーリピデスの言葉「誰かが天に神がいると言っているなら、実際は神などいない。古い逸話で語りかけるどんなバカにも騙されてはならない」から始めているが、宗教が知性と対立するという考えはヨーロッパでは根強く続いてきたようだ。1920年以降になると宗教心とIQが反比例するという科学的調査が数多く出版される。この論文の目的は、なぜこの様な現象が見られるのか考察することだ。
  論文と言っても一種の意見で、日系アメリカ人心理学者サトシ・カナザワさんの「サバンナーIQ相互作用説」を少し改変したIntelligence-Mismatch association modelがもっともこの現象を説明できると結論している。このカナザワ説では、人間がサバンナから離れるとき、知性とそれによる新しいものを求める性質が進化に直結する形質として確立する。この結果、以前より新しい行動を取ることがIQと相関する様になる。宗教も最初はIQの高い変わり者の形質として始まるが、これが当たり前になると、IQの高い変わり者は無神論的になるという結論だ(カナザワさんの本は早速購入した)。著者らはこれに基づき、社会も人間もこの集団の中で知性のミスマッチが生じることで多様性を高める方向で進化が進み、その結果として現在宗教心とIQが逆相関していると提案している。
   宗教を進化論的に考えるのは当たり前と思っている私にとってはなるほどで終わってしまう論文で、詳しく紹介することは避けるが、この論文で引用されている社会学的調査が面白いのでそれを紹介して終わる。
1) 宗教心とIQを含む様々な方法で測定した知性が逆相関することは多くの調査で示されている。
2) ロシアの様な社会主義国では無神論者のIQは圧倒的に国民平均レベルを凌駕している。
3) 米国では、原理主義的キリスト教信者は一般的に知性が低い。
4) 科学者には宗教信者は少なく、例えば英国科学協会では20年前でもすでに宗教を信じているメンバーは3.3%に過ぎなかった。
5) この傾向に対して、科学を専攻する大学生は人文系の大学生より宗教心が高いことが報告されている。すなわち大学生段階ではIQと宗教心は相関がない。しかし、ポスドクや大学教員になるとこれは逆転し、科学専攻の方が人文系の研究者より宗教心がなく、またIQが高い。
6) 韓国だけはIQと宗教心が相関するが、IQの高い順序は、プロテスタント、カソリック、仏教と続く。(韓国は政教分離が明確な国だと思うが、その意味で我が国との比較は面白い様に思う。残念ながら我が国での研究は引用されておらず、調べてみたいところだ。)
7) コンピュータモデルの計算では、民族主義的思想が最終的にた民族主義を凌駕する。
などなどだ。すべてオリジナルな論文があり、ぜひ目を通してみたいと思う。

  ただ、この社会学的結果を眺めていると、我が国の政府や議会を担う人たちは宗教側に偏っており、フランスでは逆になっていることがわかる。科学的に調べれば調べるほど、この民主主義化が抱える問題の出口は見つかりそうもない。

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