今日紹介するノースカロライナ大学と中国・南通大学からの論文は、この免疫の暴走を抑えるシステムが、痛みを抑える作用もあることを示す論文でNature Neuroscienceのオンライン版に掲載された。タイトルは「PD-L1 inhibits acute and chronic pain by suppressing nociceptive neuron activity via PD-1(PD-L1はPD−1を介して痛覚ニューロンを抑制し急性・慢性の痛みを抑える)」だ。
免疫調節のためのシステムがそのまま神経系に発現し、痛みを和らげているというタイトルを見て誰もが我が目を疑うはずだ。どうしてこんな可能性を追求しようとしたのか理解できない。ひょっとしてオプジーボの副作用に痛みが増強されるという話があるのかと調べてみたが、副作用のほぼ全てが免疫の暴走に起因しており、痛みについての特別な記述はない。要するに理屈も何もなくふっと思いついてやってみたといった様子だ。
動機は不明でも結果オーライならそれでいい。著者らはフォルマリンを皮下に注射して起こる痛みをPD-L1注射が抑えるかという実験を行い、刺激後1時間ぐらいに現れる痛みを強く抑えることを発見した。次に、外から注射したPD-L1だけでなく、体内で発現しているPD-L1も鎮痛作用があるかどうか確かめるため、PD1ノックアウトマウスを用いて痛みへの感受性を調べる実験を行い、確かに感受性が高まっていることも確認している。
もともとPD-L1は様々ながん細胞で発現しており、免疫システムに限ることはないが、それが鎮痛作用を持つなら、その受容体PD1は神経細胞に発現する必要がある。驚くことに、後根神経節の感覚神経がPD1を発現しているだけでなく、多くの神経組織ではPD-L1も中程度に発現している。また、人間の後根神経節にも同じ様にPD1が発現している。すなわち、鎮痛機能もPD-L1/PD1の生理的な機能だということになる。
生理学的に後根神経節細胞のPD1を刺激すると、リンパ球と同じでSHP1と呼ばれる脱リン酸化酵素が活性化され、これによりカリウムチャンネルの機能が低下することで、神経興奮が収まり、鎮痛作用が出ることを示している。
にわかに信じがたい論文だが、鎮痛作用についての実験自体は単純な方法で、すぐ追試できるので、本当かどうかはすぐわかるだろう。いずれにせよ、なんでもやってみないとわからないという典型の論文だ。