今日紹介する英国・ランカスター大学からの論文は、妊娠後期(第3期)の胎児の視覚だけでなく、形への好みがあるのかどうか、面白い方法で調べた研究で、6月19日号発行予定のCurrent Biologyに掲載された。タイトルは、「The human fetus preferentially engages with face like visual stimuli(人間の胎児は顔のような視覚刺激により強く反応する)」だ。
この研究のハイライトは子宮の中の胎児にどのように形を認識させ、その反応を記録するかに尽きる。研究では、超音波で子供の頭や目の位置を確認し、視覚に入るよう人の組織を通りやすい赤い光のスポットで母親のお腹に投射している。この時3つのスポットを子供の縦軸に対して、正三角形、逆三角形になるよう投射する。その後、3つのスポットを平行に移動させたとき、胎児が頭を動かして光を追いかけるかどうか調べている。すなわち胎児の反応は、超音波画像のビデオを撮影し、光を追う動きをするかで確認している。 結果は極めて単純明快で、新生児と同じで、逆三角形により強く反応して追いかけるという結果だ。 この結果は、1)胎児は体内で光を感じていること、2)おおまかな形の認識が出来ること、そして3)特定の形に反応する一種の本能を持っていること、を示している。
逆三角形が人間の顔を模しているとするのは早計だろうが、視覚認識のような高次機能でも、白紙の神経回路に経験が書き込まれているわけではないことがわかる。この本能が何に起因するのか、重要な問題だ。また、超未熟児の脳発達を促す生育法の開発にも、このような研究は重要だと思う。
とはいえ、このような研究を承諾してくれたお母さんたちには脱帽。