今日紹介する英国エジンバラ大学からの論文は、転写と染色体構造を仲立ちするSAF-A分子の機能を細胞学的、生化学的に明らかにした研究で6月15日号のCellに掲載された。タイトルは「SAF-A regulate interphase chromosome structure through oligomerization with chromatin-associated RNAs(SAF-Aは染色体と関連したRNAにより重合することで中間期の染色体構造を調節する)」だ。
この分野のプロの仕事という印象を強く持ったが、筆頭著者は日本の方のようで、期待したい。
RNAへの転写が染色体レベルの変化を誘導することは、X染色体不活化や、免疫グロブリンクラススウィッチなど、様々な例が知られているが、この研究ではこれを支える多くの分子の中からSAF-Aと呼ばれる染色体スキャフォールド結合タンパク質に焦点を絞ってその機能について調べている。
まず、染色体の中で遺伝子が多い領域と、極めて少ない領域を選んで、SAF-Aが欠損するとそれぞれにどんな変化が起こるか調べ、遺伝子の多い領域だけでSAF-Aが染色体構造リモデリングに関わり、このリモデリングがRNA転写により誘導されることを明らかにしている。
次にこの現象の生化学的メカニズムを調べ、SAF-AのATP-ase活性が転写されたばかりのRNAと結合することで誘導され、ATPとの結合により分子の3次元構造が変化し、SAF-A同士の重合が起こり、ATPaseの働きでATPが分解すると、重合が解消されるサイクルが回ることを明らかにしている。
次に、この生化学的プロセスが細胞の中でも起こっていることを調べるため、詳細は述べないがPLA,FRET及び詳細な細胞内でのSAF-Aの状態の解析など、あらゆる方法を駆使して、新しいRNA転写によりトリガーされるSAF-Aの重合が細胞内で起こっていることを証明している。
最後に、こうして誘導される重合SAF-AがRNAを介してクロマチンに結合し、染色体を緩める効果があること、この結合がないとDNAにストレスがかかり、遺伝子に切れ目が入ったりすることなどを示している。もちろん、紹介を省いたが、SAF-A各ドメインの変異体の研究から、それぞれの分子機能の構造的基盤も明らかにしている。
転写とクロマチンの関係についての研究は今急速に進んでいると感じているが、実際の転写の現場に最も近い分子が見えることで、さらに研究が加速する予感がする。