今日紹介するハーバード大学からの論文は、プリズムを組み合わせた新しい記録方法を開発して島皮質の神経興奮を記録できるようにしてこの問題にチャレンジした研究で6月22日発行のNatureに掲載される。タイトルは「Homeostatic circuits selective gate food cue response in insular cortex(島皮質に見られる食べ物からのシグナルをコントロールするサーキット)」だ。
研究で使われた写真は、美味しい食べ物の写真ではなく、異なる縞模様のパターンで、一つは食べ物、一つは苦い水、そして最後は何も起こらないパターンを意味する写真で、これらのパターンの意味を学習させる。この学習により、空腹時食べ物を意味するパターンを見た時に食べ物を期待する反応が起こる。そして期待通り、島皮質の活性を抑えると、食べ物を期待して舌を動かす反応が消えることを確認している。
島皮質の関与がわかっても、神経興奮を調べるのは難しかったが、著者らはマイクロプリズムを組み合わせた新しい方法を開発し、島皮質全体でここの神経活動を記録できるようにした。この技術開発がこの研究のハイライトになる。
この方法で島皮質を観察すると、期待通り腹が減っている時だけ、食べ物を示すパターンに反応し、食べ物をもらうための行動を起こす過程で興奮が高まりほとんどの神経細胞が興奮するのが記録される。すなわち、視覚認識と空腹感が島皮質で統合されることがはっきりわかる。
次に、空腹のシグナル回路について調べ、摂食や肥満に関わるとして知られているAgRP神経が刺激されると、島皮質に空腹と同じシグナルが入ることを明らかにし、またこのシグナルがどうリレーされるか明らかにしている。
詳細を省いて結論を述べると、
餌が欠乏すると摂食に関わるAgRP神経が興奮し、この興奮は視床傍室領域、扁桃体基底外則核とリレイされて島皮質に到達するまでに、他の様々なシグナルを統合して、視覚などの認識シグナルによる刺激への閾値を変化させることで、空腹時に食べ物の写真に興奮するようになってしまうことを明らかにした。
現在の脳研究の大爆発から考えると、もう驚かなくなったが、それでも身近な問題の脳回路が明らかになるのは面白い。ただ理屈が分かったとはいえ、私の欲望をコントロールするのは難しそうだ。