今日紹介するスイスバーゼル・バイオツェントルムからの論文は嗅球の介在神経をリクルートする腹側前方のSVZに存在する神経幹細胞に焦点を当て、この増殖が遠くに存在する神経自体により調節されている可能性を示した論文で6月15日号のScienceに掲載された。タイトルは「Hypothalamic regulation of regionally distinct adult neural stem cells and neurogenesis(脳下垂体は特定の領域にある神経幹細胞による神経新生を調節する)」だ。
この研究ではまず腹側前方部SVZの神経幹細胞を増殖させる化合物をスクリーニングし、なんとオピオイド(エンドルフィン)受容体を刺激する化合物が静止期にある幹細胞を増殖させることを発見する。
静止期幹細胞を刺激する因子がエンドルフィンと特定できたので、次に腹側前方のSVZに存在して、背側には存在しないエンドルフィンを分泌できる神経細胞を探索、ついに視床下部に存在する神経にエンドルフィンを分解して分泌できる細胞が存在し、腹側前方のSVZまで神経端末を伸ばし、場所によっては神経幹細胞と直接接触していることを発見する。
ほんとうに下垂体神経により神経幹細胞の増殖に関わるかを調べるため、下垂体でエンドルフィン分解する神経を70%程度除去すると、神経幹細胞も約60%程度低下することが明らかになった。
次は逆にこの細胞のみ刺激できるシステムを用いて刺激すると、複属前方部の神経幹細胞のみ増殖することがわかった。
驚くことに、このエンドルフィン分解能のある下垂体神経細胞は空腹・満腹の調節に関わる重要な神経であることがわかっている。そこで、マウスに十分餌を与えて満腹にした時、空腹にした時、空腹の後餌を与えた時に分けてこの神経の活性を調べると、空腹時で低下し、満腹時で元に戻ること、そして何よりもこれに合わせて神経幹細胞も空腹で減少、餌を食べると増殖することがわかった。さらに、この刺激により嗅球の介在神経数が調節されていることを明らかにしている。
神経幹細胞が、神経の興奮状態により増えたり減ったりすることを示した驚くべき論文だが、同じことが他の領域にも見られるのか重要だと思う。様々な精神疾患で神経幹細胞の増殖が低下することが知られている。この原因が、神経ネットワークの変化で起こるなら、将来対処法も見つかるかもしれない。