もちろん、政権発足早々から4閣僚が辞任するなど、前途多難が報道されているが、フランス無党派層に新しい受け皿を示し、支持を集めたことはまちがいなく、当分は新しい風を送り続けるように思える。
この新しい風について6月23日号のScienceが、マクロンの科学政策を紹介した上で、今回共和国前進から当選した数学者、セドリック・ヴィラニのインタビュー記事を掲載していたので紹介したい。
もちろんどこまで実現できるのかはわからないが、国内政策の柱としてマクロンは、科学技術予算を2.2%から3%に引き上げ、大学自体の裁量を高めるという大胆な提案を行っている。そして、トランプの反科学政策に対抗して約束したグローバルな公約、「Make our planet great again」に基づいて、3千万ユーロをかけて外国人研究者を呼び寄せ、フランスを環境や温暖化問題の中心にしようと意欲的な計画を打ち出している。
新しい風は今回共和国前進の議員の顔ぶれにも見られる。なんとほぼ半数が女性で、大きなメッセージとなっているが、Scienceが注目したのは、フィールズ賞を始め様々な賞を受賞したトップ数学者セドリック・ヴィラニが選挙に出馬し議員になった点だ。我が国で言えば、京大数理研の森先生が議員になったようなものだ。虚ろな目で政府見解を繰り返す、タレント先生を駒として使っているどこかの政府とは大違いだ。多くの人が新しい風を感じることができたと思う。サイエンスも早速インタビューを試みている。
まず、議会活動で何を行うのかという質問に対して、
「フランス人に自信を取り戻してもらうこと」 「競争的研究資金の効率化」 「国と私企業の開発コストのバランス」 に重点的に取り組むと答えている。 具体的にな何をするのか?という質問に対し、
研究に専念できるポジションの創設、大学が学生に明確なキャリアパスを示せるようになることなどをあげた上で、自分のミッションは科学に限るものではなく、政治に全く科学マインドが見られない状況を、科学に基づく政治に変えることだと答えている。
マクロンは本当に科学推進派か?という質問に対し
科学技術相にフレデリック・ビダルが選ばれたことからよくわかるように、基礎と応用のバランスも含めて期待に十分応えるはずだと答えている。
最後に数学者としてのキャリアは捨てるのかと聞かれて、
すでにポアンカレ研究所の所長になった2009年に研究は終わっていると明確に答えている。そして今は、政治家としての使命の方が大きいと締めくくっている。
過去のキャリアに綿々としがみつかず、新しい使命に挑戦する我が国には考えられない明快な答えに脱帽。
科学が制度化され官僚の科学技術施策に研究者は翻弄される。一部の有識者によって決定、答申された技術キーワードは予算の偏りを生み、およそ10年間にわたって成果が評価されることなく国費の垂れ流しが続く。これが我が国の科学技術施策の本質だ。
現状はAI を課題提案に盛り込めば競争的資金が獲得できる状況にある。これまでAIに全く縁のない研究者や研究機関がAIをキーワードに予算を獲得している。
およそ10年ごとに繰り返される流行病のようなこの愚行を改めない限り、我が国に真のイノベーションは生まれない。
全く同感です。自分の研究費を獲得するための方便としてのAIになってはこまります。