もちろん患者数が多いことは、新薬開発が盛んであるということで、エーザイのアリセプトの例からわかるように、効果が確認されれば大型薬に発展することから、各社しのぎを削っている。
現在実際の臨床治験に入っている薬剤の現状は、患者さんや家族の最も知りたい情報だが、米国の治験登録サイトClinicaltrial.gov.を見るとかなり詳しく知ることができる。しかし、登録されている数が多いため、なかなかその気にはならない。
まさにこの作業を行ってくれたのが今日紹介するクリーブランドクリニックからの論文で、Clinicaltrial.gov.に登録されたアルツハイマー病治療薬の治験についてわかりやすくまとまっている。タイトルは「Alzheimer’s disease drug development pipeline:2017(アルツハイマー病治療薬開発のパイプライン2017)だ」。
現在開発中の治療薬は、対症療法に用いる薬剤と、病気のプロセスを変化させるための薬剤に分けることができるが、特に後者に注目して箇条書きで紹介したい。
1、 治験中の薬剤は全部で105種類存在し、第1相/25、第2相/52、第3相/28種。確かに治験は活発に行われ、その7割近くが企業が関わる治験だ。第1相治験が少ないのは、新しい開発が少ないのと、直接第2相にすすむ薬剤が多い結果だ。
2、 安全性を確かめる第1相試験のうち20種類が疾患進行過程を標的にしている。問題は、第1相でも平均755日、2年以上を要することで、他のステージと同じで、治験にかかる時間が最大の問題になっていることがわかる。
3、 薬の大まかな効果を判定する第2相試験には多くの薬剤がひしめいている。36種類の薬剤が病気の進行を止めるための薬剤で、メカニズムとしてはBACE阻害剤とアミロイドやタウに対する抗体が中心になる。第2相の平均期間は1140日と、3年を越しており、また1治験あたり151人の患者さんが参加している。
4、 最後に効果を確認する第3相28種類のうち18種類が病気の進行を止めるための薬剤で、我が国のエーザイ、協和発酵、武田の3社も顔を覗かせている。さて治験期間だが平均1012人の参加者で、なんと1677日もかかっている。
5、 メカニズムについては、ベータアミロイドが膜から切断されるのを止めるBACE阻害剤、βアミロイドやタウ蛋白を様々な段階で除去するための抗体が各社最も力を入れているが、抗炎症剤、神経細胞保護剤なども治験に入っている。
6、 BACE阻害剤が我が国のエーザイも含め5種類も2/3相治験に入っているのは驚くとともに期待を持った。この薬剤は、脊髄液へのベータアミロイド量を測ることで効果がわかるが、長期効果になるとすでに撤退した会社があるぐらいで、効果が確認しづらい。また分子構造から見て阻害剤が開発しにくい分子で、副作用の懸念も常に存在する。ぜひ現在治験中の中から幾つか薬剤が生まれてほしい。
7、 アミロイドやタウに対する抗体薬は、我が国のエーザイと協和発酵も含め多くの治験が走っている。ただ、脳血液関門の問題、抗体薬のコストの問題などから、効果が確認されてもそのまま手放しで喜べるかどうかわからない。しかし心配するより、まず効果を示すことが先決だろう。
8、 最後に、この論文では治験のための患者さんのリクルートに長い期間がかかること、さらに治験期間自体も全部で13年と長期にわたることを最も大きなハードルになっているとして強調している。このことは、現在第2相の薬剤が認可されるのがようやく2025年ということを意味し、新しい開発・治験方法の開発の必要性を物語る。 以上、ざっと紹介したが、論文自体は詳細にわたり、また元のデータベースが存在することから、患者さんの質問に答えるための資料としては最適の論文だと言える。そして、患者さんの期待に応えようと多くの企業や研究所が困難な治験に取り組んでいることは間違いない。
エンドポイントの設定が難しいこともPOC取得に時間がかかる原因と思います。
ある表現型に着目したモデル動物が開発され、そのもので薬効が示されたとしても、ヒトの病態との相関性がどれだけあるものなのか、同様の薬効がヒトで再現できるかは、そこまで行かなければ誰にもわからない極めて開発困難な疾患領域です。
予防の観点での研究が進むことにも期待したいです。
しかし、ファイザーやメルクなど、数多くのパイプラインを持っている企業もありますが、こんな治験をやっていくとなると大変ですね。
莫大な開発費用を投資するだけの根拠を揃え確度を見極める判断は相当な重圧であると思います。失敗すれば会社が傾きますので。