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乳がん再発に関わる遺伝子変異(11月9日号Nature Genetics)

2013年11月13日
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今日友人が訪ねて来て乳がんの再発のことを聞かれた。乳がんの増殖を抑制する薬剤としてエストロゲン受容体に作用するタモキシフェンやフルベストラントなどが広く使われている。とは言え、乳がんの患者さん達は、いつこれらの薬剤が効かなくなって再発するのか常に心配しながら生きている。友人もこの心配について質問しに来た。勿論私は専門家でないので、正確な方針を示すことは出来ない。代わりに、今ガンのゲノム研究は急速に進んでおり、薬が効かなくなったガンに対する治療が開発できる可能性は加速度的に上がってきていると励ました。友人が帰った後、Nature Geneticsを見ていたら、ドンピシャの論文が2報掲載されていて驚いた。一つはSloan-Ketteringがんセンターからの研究で「ESR1 ligand-binding domain mutations in hormone resistant breast cancer (ホルモン療法抵抗性の乳がん細胞にはエストロゲン受容体のホルモン結合部位の突然変異がある)」で、もう一報はミシガン大学医学部からの研究で「Activating ESR1 mutation in hormone-resistant metastatic breast cancer (ホルモン抵抗性の転移乳がんはエストロゲン受容体のホルモン結合部位を活性化させる突然変異を持つ)」だ。両論文とも、ホルモン抵抗性になった再発乳がんの遺伝子を調べ、タイトルにあるようにホルモン抵抗性の原因がエストロゲン受容体自体に起こる突然変異であるという結論に到達している。突然変異の場所も限定されているので、抵抗性獲得に直接関わっている可能性が高い。
   ここで調べられたほとんどの症例は平均5年ぐらいの経過をたどってきている。膵臓ガンのように急速に進展する場合も大変だが、乳がんの場合はまさに闘病という言葉以外に表しようのない長い戦いがある。この長い経過の中で、様々な遺伝子に2次、3次の突然変異があるが、最も高い確率で見られるのがこのエストロゲン受容体の突然変異であることが今回明らかになった。この突然変異がおこったエストロゲン受容体は、それ自身で高い発がん能力を持つ事も明らかになった。また、この突然変異が受容体分子のどのような構造変化につながるかも調べられている。これは新しい薬剤を開発するのに必須の情報だ。とは言え、今この新しい突然変異に対抗する手段があるわけではない。しかしいったん遺伝子が決まると、薬剤開発のスピードは確かに速まる。他のガンについては、私たちのホームページでも紹介してきた。今回見つかった突然変異がわからないときと比べると、新しい薬を見つける可能性は十分ある。希望のある仕事で是非友人に知らせようと今回取り上げた。
   一方、以外だったのは、この2つの論文が、再発乳がんの遺伝子を調べた研究の最初であるという事実だ。おそらく転移ガンのサンプルを患者さんから貰ったりするのが難しいのかもしれない。しかし、がんゲノム研究の進展を考えると、発症して手術を受けるときから長期間様々な資料を提供していただくことが、新しい治療開発の鍵になることは確かだ。このためには、患者さんを中心に、乳がん克服のため医師、創薬企業、研究者が集まるコミュニティーの形成が必要だ。我が国でこのようなコミュニティーをどのように作っていけばいいのか、考えていきたいと思った。

  1. okazaki yoshihisa より:

    今日から、key wordガンでバックナンバー勉強させていただきます。
    ホルモン抵抗性とエストロゲン受容体変異の関連など、次世代シークエンサーなどの発展で、患者さん検体から直接解析可能で、重要な情報が得られる時代。

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