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7月3日:RNAi合成システムのルーツ(Natureオンライン版掲載論文)

2017年7月3日
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ファイアーとメローが線虫でRNA干渉(RNAi)の存在を明らかにしたのが約20年前のことだが、その後急速にRNAに基づく遺伝子調節のメカニズムが明らかにされ、その究極としてCRISPRシステムの発見と利用があるように思える。
   今日紹介するNY・マウントサイナイ医大からの論文は、現在は転写調節の仕組みとして発展しているRNAiやmiRNA合成システムも、元をたどればCRISPRシステムと同じで、RNAを標的としたウイルスに対する免疫機能として誕生したことを示した研究でNatureオンライン版に掲載された。タイトルは「RNase III nucleases from diverse kingdoms serve as antiviral effectors (様々な生物界に存在するRNaseIIIは抗ウイルス効果を持つ)」。
   CRISPR/CasシステムとRNAiやmiRNA合成システムを比較すると、極めてよく似ていることがわかる。ところがCRISPRはもっぱら外来因子に対する防御システムとして機能し、一方RNAiの合成に関わるRNase III(Drosha)やDicerは遺伝子発現調節に関わっている。代わりに私たちのウイルスなど外来因子への防御はインターフェロンに置き換わっている。これは、多細胞動物が生まれ、一部の細胞の維持より個体の維持が優先されるようになると、個々の細胞内でウイルスを退治するより、インターフェロンのような全細胞が防御体制には入れるシステムの方が適しているためと納得しているが、著者らはそれでも昔のウイルスなどに対する細胞防御に関わる名残の機能がRNase IIIに残っているのではないかと着想した。
   この研究はこの着想が全てで、RNase IIIを欠損させた細胞ではRNAウイルスの増殖が高まっており、これがウイルスRNAの高次構造を認識するRNase IIIの作用であることを示している。そして、様々な動植物のRNase IIIが同じ機能を発揮できることを示して、Drosha, DicerなどRNAiやmiRNAなどを合成するシステムが、もともとはCRISPRと同じようにウイルスなどに対する防御として進化してきたと結論している。
   ウイルスRNAも同じような高次構造を取ることを考えると、別に不思議は全くないが、ちょっと進化について思い巡らせて、論文に仕上げた手腕には脱帽。

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