今日紹介するコールドスプリングハーバー研究所からの論文は、レトロトランスポゾンの活動抑制に関する研究で6月29日号のCellに掲載された。タイトルは「LTR-retrotransposon control by tRNA-derived small RNA(tRNA由来のsmall RNAによるLTR型レトロトランスポゾンのコントロール)」だ。
ゲノムプロジェクトの結果、私たちのゲノムの半分が、トランスポゾンと呼ばれるゲノム上を伝搬する能力を持った遺伝子単位により占められていることが明らかになった(BRHウェッブサイト拙稿参照http://www.brh.co.jp/communication/shinka/2015/post_000011.html)。言ってみれば、ゲノムという家の中に勝手に動き回れる居候がいるようなものだが、とはいえ好き勝手動いてもらったのではゲノムの恒常性は維持できない。このため、ゲノムの恒常性を維持するために、piwiRNA などsmall RNAが様々なレベルでレトロトランスポゾン活性を抑制していることがわかっている(BRHウェッブサイト拙稿参照http://www.brh.co.jp/communication/shinka/2015/post_000017.html)。
この研究では、レトロトランスポゾン活性を抑制するsmall RNAに、これまで知られていなかった新しいRNAが存在する可能性を探索している。この目的のため、まずエピジェネティックな抑制が狂ってレトロトランスポゾンが再活性化されているトロフォブラスト幹細胞や、setdb1遺伝子が欠損したES細胞で、レトロトランスポゾンを抑えるために誘導されるsmall RNAを探索し、なんとレトロトランスポゾンと結合するsmall RNAの多くがtRNAのT armに由来する18merと22merのRNAであることを発見する。
この発見がこの研究の全てで、あとはtRNA由来のRNAがレトロトランスポゾンの活性を抑制するか、どのトランスポゾンが標的になっているのかなどを検討している。
結果は、LTRを持つ最も活動性の高いレトロトランスポゾンがtRNA由来small RNAの標的で、22merは、マイクロRNAと同じように、転写されたRNAに結合して分解する機能を持っており、一方18merは活性化により転写されたトランスポゾンRNAが逆転写酵素によりDNAへと転換さるのを抑制することで、新しくゲノムへ挿入されるのを抑制していることを明らかにしている。
RNAの多様な機能を知ってしまうと、特に驚くほどの話ではないと思われるが、核酸配列をアミノ酸と対応させるというシンボル化のような生命発生の最も中核の機能を持つtRNAがゲノムの統合性を維持するのに働いているのを知ると、背景にもっと面白いことがあるのではないかと勘ぐりたくなる。