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7月7日:プロトン阻害剤のリスク(The BMJ Open 掲載論文)

2017年7月7日
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胃の痛み、胸やけなど、誰もが経験する嫌な症状だが、背景に消化器潰瘍や、逆流性食道炎があることが確認されると、胃酸の分泌を抑えるため、H2ブロッカーと呼ばれるヒスタミン受容体阻害剤か(H2B)、プロトンポンプ阻害剤(PPI)が処方される。ただ、症状を抑える力はPPIが強く、患者さんも喜ぶので、PPIが処方される頻度は最近急速に伸びている。実際昨年厚労省が発表した処方数では、上部消化管症状に対する処方のうちPPIが24%、H2Bが9%を占めており、これを裏付けている。
   ところが最近、PPIが間質性腎炎、認知症など様々な疾患のリスクになることが報告されるようになった。そこで医療についての比較的正確な記録が残っているアメリカ退役軍人局からデータを抽出して、新しくPPIを使用した患者さんを平均5年追跡、死亡率を比べたのが今日紹介するセントルイス疫学センターからの論文でThe BMJ Openにオンライン掲載されている。タイトルは「Risk of death among users of proton pump inhibitors: a longitudinal observation cohort study of United States veterans(プロトンポンプ阻害剤のリスク:米国退役軍人の縦断的観察コホート研究)」だ。
   調査では2006〜2008年にPPIやH2Bの処方を初めて受けた患者さん約35万人を平均5.7年追跡し、原因を問わず死亡率を調べた研究だ。結果は、PPIとH2Bを処方された人で比べると、生存曲線でPPIを処方された人の死亡率は高い。これを背景などを計算し直してPPIとH2Bのオッズ比を算定すると、1.16-1.25と優位にPPI使用者の方が高いオッズ比を示す。さらに、PPI の処方期間ごとにハザード比を調べると、処方期間と正比例してリスクが高まることがわかった。これらの結果から著者らはPPI服用により、原因は不明だが全般的な死亡リスクが高まると結論している。
   もちろんこの研究には問題も多い。対象を統計学的に選んではおらず、一般的観察研究である点、またオッズ比が1.2という数字は、リスクとしては大きくない。しかし、古いデータだがタバコを10本以上吸う人の全体の死亡率で算定された1.8というハザード比(Arch Intern Med, 159, 733, 1999)を基準にすると、1年以上PPIを服用した場合のハザード比が1.5なので、タバコ程度の問題はあると考えたほうがよさそうだ。
   しかしこれらはすべて医師の処方を受けた場合の話で、米国ではPPIは自由に薬局で買うことができる。PPIは安全な薬なのでH2Bのように市販薬として認めて欲しいという意見がgoogle検索のフロントページに出てくるのを見ると、やはりリスクはあることを警告したほうがいいと思った。
  リスクの生物学的メカニズムの研究及び、観察研究でも良いのでこの結果の追試が行われるまで、規制緩和はちょっと待ったほうがいいように思う。
  1. 橋爪良信 より:

    プロトンポンプ阻害剤は、服用時にはプロドラッグで、生体内で活性化されてプロトンポンプのシステイン残基と反応して阻害効果を発揮します。
    その活性体は、生体内の求核反応性のチオール基、アミノ基、ヒドロキシル基などと反応するため、プロトンポンプ非特異的な反応によって、副作用や毒性を発揮する可能性があると思われます。

    1. nishikawa より:

      もともとミトコンドリアでもプロトンポンプは大事ですから、よほど特異的でないと心配ですね。

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