今日紹介するマサチューセッツ総合病院からの論文は、病院の中で病理検査として行われた1400例近いガン患者さんのサンプルの中から、正常細胞、原発巣、リンパ節転移巣、他臓器転移巣が揃った患者さん13例について、ガンの進化と転移の関係を調べた研究で7月7日号のCell に掲載された。タイトルは「Origins of lymphatic and distant metastases in human colorectal cancer (人間の大腸直腸癌でのリンパ節転移、遠隔転移の起源)」だ。
現在ではフォルマリンで処理された病理サンプルでも遺伝子解析を行うことは可能だが、この研究に必要な条件が揃った患者さんについては全ゲノムレベルの解析を行うための患者さんの承認が取れていない。そこで、遺伝子配列の中にポリグルタミンの繰り返し配列を持つ20−43種類の遺伝子を選び、この繰り返し配列の数の変化で細胞の進化を追跡している。ポリグルタミン繰り返し配列は、数が極端に増えない限り分子の機能に大きな影響はなく、多数の遺伝子を組み合わせれば細胞追跡マーカーとして使える。確かにいいアイデアだ。
さて結果だが、原発巣からリンパ節転移、そして他臓器転移へと連続的に進化しているケースも35%程度存在するが、残りのケースでは、リンパ節転移と他臓器転移に見られるガン細胞は、それぞれ全く異なる起源を持つことが明らかになっている。また、このようなケースでは、原発巣自体も大きく多様化しており、転移が原発巣の変化としてすでに用意されていること、そしてリンパ節転移と他臓器への転移はに必要な条件は異なっていることを示唆している。
ではどのような変化がリンパ節転移や他臓器変異の条件となるのか知りたいところだが、この研究ではエクソームなどの解析はできていないため、せっかくこれほどのサンプルが揃ったのに残念だ。しかし、保存サンプルで十分な遺伝子変化を捉えられるようになった今、この問題についても解析は急速に進む予感がする。また、臨床側でも、リンパ節と遠隔転移が全く異なる性質のものであることを頭に入れて、病気と対応する必要があるだろう。