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7月18日:幼児の行動パターンには遺伝性がある(Natureオンライン版掲載論文)

2017年7月18日
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以前、幼児に人が話をしているビデオを見せた時、正常児は目により多く注目するのに自閉症児では口を見る時間が長く、これで自閉症の早期発見が可能であることを示したアトランタ自閉症研究センターからの論文を紹介した(http://aasj.jp/news/watch/686)。さらに、口により強く惹きつけられる性質が、実は扁桃体の単一神経レベルで記録できるというロサンゼルスCedar Medical Centerの仕事も紹介した(http://aasj.jp/news/watch/753)。これらの事実は、自閉症時の行動変化をかなり脳内ネットワークレベルの違いに落とし込むことができる可能性を示している。
   今日紹介する論文は、同じアトランタ自閉症センターとワシントン大学が共同で発表した論文で、ビデオを見たときの幼児の反応パターンが遺伝的に決まっていることを示す画期的な研究で、Natureオンライン版に掲載された。
   この研究では一卵性双生児82人、二卵性双生児84人、それ以外の幼児84人をリクルート、様々なビデオを見せた時の目の動きをアイトラッカーで追跡し、目を見ているか、口を見ているか、ビデオに注目していないのか、また、ビデオに反応してどちらに目を動かすのかなど、詳細に記録し、ビデオを見た時の幼児の反応を数値化し、一致率をそれぞれのペアで比べている。もし行動の一致が一卵性双生児のみで見られると、遺伝的要因が強く、一卵性、二卵性を問わず双生児全体で一致率が高い場合は、家庭環境などの外的要因が高いと結論できる。
   結果だが、一卵性双生児のみがほぼ完璧な一致を示すが、2卵生双生児と一般児ではペア間の相関がほとんどなくなる(実際の図を見ると一致の程度に目をみはる)。さらに、ミリ秒単位で目の動きを記録すると、ほとんど同じように目を動かしていることもわかる。この一致は、例えば目を急速に動かすサッカードのタイミングにまで及んでおり、さらには特定の場所の同じようなシグナルを見て網膜への刺激が一致する場合は、なんと次の目の動く方向まで一致することがわかった。そして、自閉症理解に重要な、意味的内容に対するの反応についても一卵性双生児のみ一致率が高い。言い換えると、外界に対して遺伝的に同じ幼児は、ほぼ完全に同じように行動していることになる。
   次に、この一致が刺激に対する反応の一致なのか、それともそれぞれの幼児がもつ目的に向けた行動の共通性による一致なのかを調べるため、同じ内容のビデオに対する反応、全く異なる内容のビデオに対する反応を調べ、単純な刺激への反応の一致ではなく、目的に向けた行動パターンの一致により、ビデオに対する反応が決まっていることを示している。すなわち、外界(社会)の情報を理解して、それに合致した目的に合わせた行動に関わる脳回路が、遺伝的に決まっていることを示している。
   最後に自閉症児での行動パターンを示しているが、目や口に対する反応の差というより、どちらにもほとんど興味を示さないというパターンになるようだ。いずれにせよ、正常児と明確に区別できる。
   一卵性双生児の研究から、このテストがここまで遺伝的に決まっているなら、自閉症児のパターンも今後遺伝的に理解できる可能性を示している。今後、一致率だけでなく、行動パターン自体と、ゲノムとの相関が調べられるだろう。双生児研究がいかに重要かを思い知らされた。

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