元の記事は以下のURL参照 http://www.asahi.com/articles/TKY201311140015.html
乳がんの論文を続けて扱う事になった。乳がんになっても可能なら乳房を残したいと言うのが女性の気持ちだ。その気持ちに答えるために腫瘍部分のみを切除する乳房温存療法が開発された。ただ、この手術ではどうしても取り残しがあるため、極めて再発率が高い。これを解決するために、通常術後約2ヶ月放射線照射をする事が行われ、再発率を抑える効果がある事も証明されている。しかしこれまでの治療では、放射線を少しづつ何回にも分けて照射するため、治療に5−6週間必要だった。これに対し、手術中に一回強い放射線を当てる方法がロンドン大学で開発された。この方法が本当に有効かどうかを確かめるための、欧米及びオーストラリアの国際チームの大規模臨床研究の報告がランセット誌on line版に掲載された。この臨床治験は患者目線に立った大変いい研究だ。術後5−6週間ほぼ毎日照射を受けようとすると、ずっと入院するか、通院するしかない。欧米のように標準医療のガイドラインがはっきりしている所では、入院と言う選択肢はほとんどとれないだろう。とすると通院で照射を受けるしかないが、治療施設まで離れている場合は大変だ。また、子育てなどで忙しい場合もあるだろう。このため、結局温存手術をあきらめて、乳房の完全切除を選ばなければならない患者さんも多かった。勿論医療費もかかる。このような、患者側の要望に答える事が今回の研究の目的で、ほぼ3500人の患者さんが協力して、一回照射とこれまでの照射法とを比べている。この研究自体は更に続くのだろうが、5年目の結果は明瞭で、両者に差がないと言う結果だ。これまでもELIOTと言う方法の術中照射の成績が報告されているが、この方法では粒子線照射を用い照射方法も複雑で普及が難しそうだ。これと比べると、今回の方法はより簡単に行える。これにより手術入院の期間に治療を済ませる事が可能になる。これまでこの治療法の評価については、大規模臨床試験の結果を待つとコメントされて来たが、これからはこの治療はコストも負担も少ない治療法として考えるべき選択肢になった。
この患者さんへの朗報をいち早く届けようと、朝日の岡崎さんは日本の研究機関の参加が全くないランセットの記事を紹介している。分かりやすい結果だと言ってしまえばそれだけだが、十分な内容が的確に紹介されている。特に感心したのは、日本でもよく似た治療が行われている事に言及している点だ。実際、この様な記事が出ると、患者さん達はどこでこの治療が可能かを知ろうとする。しかし、様々な要因のせいで大きな病院でも明日からこの治療を提供するという事は困難だろう。その意味で、日本でも同じ方法をそのまま導入する可能性がある事を示す意味は大きい。欲を言えば、何人かの乳がんの専門家からコメントを取って、この結果を見た時病院としてどう対応するかなどを合わせて報道出来ればより患者さんは安心するだろう。いい記事だと思った。